2014年11月15日
最初に感じたのは、満身創痍の身体をさらに自ら傷めつけようとする彼への、猛烈な怒りだった。
彼が滑ろうとするのを誰も止めなかったのだろうか、と、周囲の人々への怒りも、止まらなかった。
そしてこんな行為を美談にしてはいけない、と心の底から思った。
しかし現在、彼がアスリートとして危険を犯したのではないかという議論は、十分なされている。
彼自身、今は身体の痛みよりも、自ら引き起こした状況、議論に関して深く考え込んでいるところだろう。
本稿では彼の決断にはNOと言いつつ、羽生結弦の立場に寄り添い、なぜ彼が滑ることを止めなかったのか、そのことを考えてみたい。
2014年、グランプリシリーズ中国杯。
会場周辺に立つ幟にも、彼の姿が大きく掲げられている。会場に入れば、「全日空航空公司」の立派なブースに等身大の結弦パネルが立ち、中国人、日本人を問わずたくさんの女性たちでにぎわっている。
日本ではない場所で開催される国際大会――そこでここまで日本選手が大きくシンボリックな扱いを受けるのは、初めてではないだろうか。
もちろん日本側も盛り上がる準備は万端だ。
時差の関係もあり、今季のグランプリシリーズでは初めて、ゴールデンタイムの生放送。松岡修造氏、織田信成氏ら、看板キャスターたちも揃い、しっかり公式練習から彼を見守っている。
試合が始まれば、会場には波のように揺らぐ無数の日の丸(圧倒的に五星紅旗よりも多い!)、彼の名前をくっきり記した色とりどりの横断幕、そして日中両国のファンによる悲鳴にも似た大声援……。
多くのスターが引退し、あるいは休養をし、アフター五輪のフィギュアスケート界はいつもよりも少しさびしいシーズンになりがちだ。
しかしこと羽生結弦の周りだけは、事情が違う。
前稿にも記したとおり、グランプリファイナルのシステムが始まって以降、オリンピックチャンピオンが次の年のグランプリシリーズにフル出場するのは、達成すれば彼が初となる。
ふつうならば見られないはずのチャンピオンの滑りを、こうして見られる喜びは、私たちも大きい。
日本だけでなく中国でも大人気とあって、この会場の設え、客席の空気……もう羽生結弦がいなければこの大会は成り立たない、そのくらいの勢いだったのだ。
そんななか、ショートプログラム2位という、彼にとっては屈辱的な順位で迎えた11月8日のフリー。
朝の公式練習の時から、少し彼のことが心配ではあった。
本人は「影響はない」などと言うが、どう考えてもショートでのジャンプ2ミス、その原因の一つは腰の痛みだろう。
昨晩から「いつフリー棄権の
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