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[5] 何が羽生結弦を滑らせたのか 日本のライバルに「負けられない!」

青嶋ひろの フリーライター

 羽生結弦のキャラクター。スケートへの向き合い方。そして戦い方は、トップスケーターのなかでもかなり特殊だ。

 たとえば今シーズンの彼は、フリーに4回転3度、しかもそのうちひとつは疲れの溜まった後半に跳ぶという、空恐ろしいジャンプ構成で挑んでいる。

 前シーズン、4回転2度の構成で主要大会をすべて制したのに。最大のライバルであるパトリック・チャンが休戦していて、彼を脅かす存在はほぼないに等しいのに、である。

 彼のこれまでの歩みを振り返ると、毎年毎年、着実に目に見えるジャンプ技術の進歩を遂げていることがわかる。

 07-08シーズン(中学1年) フリーに初めて5種類の3回転ジャンプを揃える
 08-09シーズン(中学2年) フリーに初めてトリプルアクセルを入れる
 09-10シーズン(中学3年) フリーに2度のトリプルアクセルを入れる
 10-11シーズン(高校1年) フリーに初めて4回転ジャンプを入れる
 11-12シーズン(高校2年) ショートとフリーに1度ずつ、4回転ジャンプを入れる
 12-13シーズン(高校3年) フリーにトウループとサルコウを1度ずつ、計2度の4回転を入れる
 13ー14シーズン(大学1年) 4回転は前年と同じくフリーで2回
 (ここで初めての足踏み! 相当悔しがる。なぜならオリンピックではフリーで3度4回転を成功させ、優勝する計画だったから。この年は「ジャンプ構成は去年と同じだから、絶対失敗したくない」と何度も繰り返していた)
 14-15シーズン(大学2年) 今季、満を持してフリーで3度の4回転に挑む

 どうかこの成長を、普通のものだと思わないでほしい。

 どんな優秀な選手でも、トリプルアクセル、あるいは4回転で数年の足踏みをしてしまう。女子選手の場合はもっと厳しく、中学生の時点で技術の成長はほぼピークを迎え、そこから先はひたすら持てるジャンプのキープを続けるのが普通だ。

 彼だけがひとり、アスリートとしての時計が狂っているような着実さ。ほとんど、スケートを始めたばかりの少年が1回転ジャンプ、2回転ジャンプと次々に覚えていくような成長速度だ。

 ここまでの荒行、自らの身体に鞭打つような今年の「4回転3回」も、ただ自分を奮い立たせるため。すべてはモチベーションを保つために必要なことなのだという。

中国杯の公式練習でフリーの音楽に乗せて滑る羽生結弦拡大中国杯の公式練習でフリーの音楽に乗せて滑る羽生結弦
 特に今シーズンのように、大きな目標を達成してしまった後。立ち向かうべき強敵がいない状況にあっては、ここまで高い目標を設定しなければ、彼は戦い続けられないのだ。

 そんな、人一倍厳しい「戦う姿勢」は、彼の演技スタイルにもそのまま表れている。

 あるとき、「あなたのスケーターとしてのカラーは何か」という質問に、「一生懸命さ」と彼は答えた。

 「僕にあるものは、若さの勢い。すべてを全力でやる、勢いで押していく、そんなイメージが強いんじゃないかな。プログラムでも、すべて全力で、勢いたっぷりに、感情を目いっぱい出す――そんな演技が、今の僕のキャラだと思うんです」

 がむしゃらでなければ、滑り続けることができないこと。それが自分のスケートのカラーであることも、彼はよく知っていた。

 それに加えて今回は、さらに様々な事情もあった。

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筆者

青嶋ひろの

青嶋ひろの(あおしま・ひろの) フリーライター

静岡県浜松市生まれ。2002年よりフィギュアスケートを取材。日本のトップ選手へのインタビュー集『フィギュアスケート日本女子 ファンブック』『フィギュアスケート日本男子 ファンブック Cutting Edge』を毎年刊行。著書に、『最強男子。 高橋大輔・織田信成・小塚崇彦 バンクーバー五輪フィギュアスケート男子日本代表リポート』(朝日新聞出版)、『浅田真央物語』『羽生結弦物語』(ともに角川つばさ文庫)、『フィギュアスケート男子3 最強日本、若き獅子たちの台頭 宇野昌磨・山本草太・田中刑事・日野龍樹・本田太一」(カドカワ・ミニッツブック、電子書店で配信)など。最新刊は、『百獣繚乱―フィギュアスケート日本男子―ソチからピョンチャンへ』(2015年12月16日発売、KADOKAWA)。

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