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暴力団工藤会頂上作戦の行方

緒方健二 元朝日新聞編集委員(警察、事件、反社会勢力担当)

野村悟容疑者の家宅捜索で自宅前に並ぶ機動隊員ら=10月6日、北九州市
野村悟容疑者の家宅捜索で自宅前に並ぶ機動隊員ら=10月6日、北九州市
 北九州市に本拠を置く指定暴力団「工藤会」(構成員約560人)のトップとナンバー2ら首脳が警察に逮捕されてから2カ月たちました。「中枢幹部を長期間にわたって『社会不在』にすれば組織は弱体化し、壊滅もみえてくる」と警察幹部はいいます。かつて国内最大の暴力団、山口組対策でも実施した手法です。思惑通りにいくのでしょうか。

唯一の特定危険指定暴力団

 工藤会は全国唯一の「特定危険指定暴力団」です。警察庁が暴力団対策法を改正して2012年10月30日に設けた制度です。暴力団排除に取り組む企業や市民が襲われそうな場所を「警戒区域」に指定し、そこでみかじめ料を求めたら即座に逮捕できる仕組みです。一昨年から福岡県内で相次ぐ襲撃事件に工藤会が関与している。そうみる警察が、もっぱら工藤会対策として新設した制度でした。一般市民が殺されたり、傷つけられたりする事件は07年から昨年までに146件発生、うち109件が未解決です。多くは福岡県内で起きています。

 警察庁は、福岡に警視庁や大阪府警など他県の捜査員を大量に投入、事件解決に血道を上げましたがなかなか実りませんでした。そんななかで福岡県警が逮捕案件に選んだのが1998年の事件です。

9月開始の頂上作戦

 北九州市小倉北区の路上で2月18日に漁協元組合長(当時70)が射殺された事件で、今年9月、工藤会トップの野村悟総裁とナンバー2の田上不美夫会長を殺人などの容疑で逮捕したのです。田上会長は、この事件で02年6月に逮捕されていましたが処分保留で釈放され、不起訴処分になっていました。

 さらに福岡県警は間を置かずに10月、福岡市内の路上で昨年1月に看護師女性を組織的に殺そうとした容疑で、野村総裁と田上会長やナンバー3の菊地敬吾理事長ら幹部十数人を逮捕したのです。警察は手の内を明かしませんが、これまでの捜査でトップの関与を示す証拠を手に入れた、と裁判での有罪判決に自信を持っています。

 工藤会は、山口組などと同じように複数の暴力団の連合組織です。かつては主導権をめぐって激しい内部抗争を繰り広げていました。いま組織を牛耳っているのは、最大勢力と潤沢な資金を持つとされる「田中組」です。野村総裁と田上会長の出身組織でもあります。捜査幹部は「工藤会の屋台骨である組織の首脳2人を逮捕したのだからガタガタになる」と言います。やや楽天的ではないかと思います。

山口組への頂上作戦

 警察は、構成員約1万1600人で国内最大の指定暴力団「山口組」(神戸市)に対しても頂上作戦を過去何度も仕掛けてきました。首脳や中枢幹部を逮捕して、長期間組織と隔離していれば日々の運営に支障を来すだろう、との読みからです。

 現在のトップ、篠田建市組長=通称・司忍=も1998年に銃刀法違反容疑で逮捕しました。6代目組長に就任した2005年8月のすぐ後にこの事件で収監され、5年余の服役を経て11年4月に出所しました。その間も警察は「直参」と呼ばれる2次団体の組長摘発に力を入れ、数十人を逮捕しました。篠田組長の不在中、運営を担ったナンバー2の高山清司若頭も逮捕しました。

 その結果、山口組はどうなったか。危機感を強めはしましたが、むしろ結束を固めたといいます。構成員の数もさほど減りはせず、以前と変わらずにほかの暴力団にも影響力を及ぼす組織として「君臨」しています。

対策の転換期

 警察も「摘発だけでは限界がある」と察したのでしょう。数年前から「社会全体で暴力団排除を」と盛んに唱え始めました。主張は正しい。でも、やり方が拙速でした。

 暴力団の存続を支えるのは、一部市民や企業が利益を提供しているからだとして、暴力団への利益提供を禁じました。それも法律ではなく、影響力がやや落ちる自治体の条例によってです。すべての都道府県が警察の後押しで同様の条例をつくりました。自治体によって制裁内容は異なりますが、違反すれば制裁が科されることになりました。さらに警察は、暴力団とつながりのあった企業や市民にも「縁を切れ」と迫りました。

 もちろん悪いことではありません。ただ

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