さらに変わっていく彼の言葉も聞きたい
2014年12月13日
やはり彼は、進化するオリンピックチャンピオン。
ソチで得た最高の栄誉も、彼のゴールではなかった。技術も、見せるものも、心の形さえもどんどん変わっていく。その「旬」の姿を、オリンピック後のシーズンも休むことなく見せ続けてくれる、類まれな存在だ。日本で初めての男子五輪王者がそんな男であることを、改めて誇りに思う。
ならばやはり、競技に向かう姿勢。中国杯からNHK杯にかけて見せてくれたまっすぐすぎるユヅルイヅムも、少しずつ変わっていくのではないだろうか。
たとえばNHK杯での彼のコメント。
「ケガの影響は、ありません」「痛みはないです」
オリンピックチャンピオンがこれだけ跳べなくて、影響がないわけがない。
「ケガをして、練習できないこと。それを自分に対して言い訳にしてしまったんです」
ここで言い訳をしなくて、いつすればいい?
「ケガは関係なく、僕の実力不足です」
チャンピオンの実力がこんなものだと、誰が信じる?
言い訳をしたくない気持ちは、わかる。武士道などで讃えられる、美しい姿なのかもしれない。
でも羽生結弦は、21世紀育ちのオリンピックチャンピオンだ。
頑なに意地を通すだけでなく、今の身体の状態と競技への影響を説明できたとしたら、新しい時代のチャンピオンの姿として、とても刺激的ではないだろうか。
たとえば腿のケガがジャンプではなくスケーティングに大きく影響したことなど、なるほど、と思える話を、彼の口から聞けたらもっとおもしろかっただろう。
自分の身体の状態は、今、こうだ。ここの故障がこう影響しているから、ジャンプが跳べない。それでもこんなふうに対応したり工夫したりして、さらに競技に臨みたい――そんな言葉だって聞いてみたい。
ありえないような過酷な経験を、ケガだらけで戦いに臨んだ経験を通して、このスポーツの厳しさ、それでも挑みたくなる魅力も伝えてほしい。
中国杯での決断には批判の声もあがったが、彼らしい言葉で彼の生き方について語るところも聞きたい。「言い訳しない主義」を頑なに貫き通すだけでなく、クレバーに彼自身の体験を説明することが、羽生結弦ならばできるはずだ。
ケガなどを理由にしたくない気持ちは、一連の出来事で十分伝わってきた。だから次は、そのうえで、一歩先の進化を彼が見せてくれたら……。
まだ20歳になったばかりの若者に、上を求めすぎているだろうか。
この春、「羽生結弦は浅田真央になれるか」というテーマで稿を起こした。
羽生結弦は浅田真央になれるか [1]修正した「行方不明」のジャンプ
羽生結弦は浅田真央になれるか [2]スケート界に必要な選手は……
羽生結弦は浅田真央になれるか [3]作られた「結弦像」を超えて
羽生結弦は浅田真央になれるか [4]日本男子黄金時代がやって来る
日本の黄金時代を築いたスター選手たちが次々に引退、休養を宣言し、寂しくなるこのスポーツを。オリンピックチャンピオンである彼こそが支え、スケートファン以外の耳目もリンクに集め続けてほしい、と。
その当時、報道関係者の見方は冷ややかだった。
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