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羽生結弦の生き方=ユヅルイズムとは?(下)

さらに変わっていく彼の言葉も聞きたい

青嶋ひろの フリーライター

 やはり彼は、進化するオリンピックチャンピオン。

 ソチで得た最高の栄誉も、彼のゴールではなかった。技術も、見せるものも、心の形さえもどんどん変わっていく。その「旬」の姿を、オリンピック後のシーズンも休むことなく見せ続けてくれる、類まれな存在だ。日本で初めての男子五輪王者がそんな男であることを、改めて誇りに思う。

 ならばやはり、競技に向かう姿勢。中国杯からNHK杯にかけて見せてくれたまっすぐすぎるユヅルイヅムも、少しずつ変わっていくのではないだろうか。

 たとえばNHK杯での彼のコメント。

 「ケガの影響は、ありません」「痛みはないです」

 オリンピックチャンピオンがこれだけ跳べなくて、影響がないわけがない。

 「ケガをして、練習できないこと。それを自分に対して言い訳にしてしまったんです」

 ここで言い訳をしなくて、いつすればいい?

 「ケガは関係なく、僕の実力不足です」

 チャンピオンの実力がこんなものだと、誰が信じる?

 言い訳をしたくない気持ちは、わかる。武士道などで讃えられる、美しい姿なのかもしれない。

 でも羽生結弦は、21世紀育ちのオリンピックチャンピオンだ。

 頑なに意地を通すだけでなく、今の身体の状態と競技への影響を説明できたとしたら、新しい時代のチャンピオンの姿として、とても刺激的ではないだろうか。

 たとえば腿のケガがジャンプではなくスケーティングに大きく影響したことなど、なるほど、と思える話を、彼の口から聞けたらもっとおもしろかっただろう。

羽生結弦拡大羽生結弦は今後のフィギュアスケート界を支えていく立場になった
 フィギュアスケートという、ほんの10年前にはマイナーだったスポーツを、人々がこぞって楽しもうとしている今。もっと知りたいと思っている今、このスポーツの奥の深さや秘められた過酷さを、チャンピオンから教えてもらえるのだとしたら、どんなにわくわくするだろう。

 自分の身体の状態は、今、こうだ。ここの故障がこう影響しているから、ジャンプが跳べない。それでもこんなふうに対応したり工夫したりして、さらに競技に臨みたい――そんな言葉だって聞いてみたい。

 ありえないような過酷な経験を、ケガだらけで戦いに臨んだ経験を通して、このスポーツの厳しさ、それでも挑みたくなる魅力も伝えてほしい。

 中国杯での決断には批判の声もあがったが、彼らしい言葉で彼の生き方について語るところも聞きたい。「言い訳しない主義」を頑なに貫き通すだけでなく、クレバーに彼自身の体験を説明することが、羽生結弦ならばできるはずだ。

 ケガなどを理由にしたくない気持ちは、一連の出来事で十分伝わってきた。だから次は、そのうえで、一歩先の進化を彼が見せてくれたら……。

 まだ20歳になったばかりの若者に、上を求めすぎているだろうか。

 この春、「羽生結弦は浅田真央になれるか」というテーマで稿を起こした。

 日本の黄金時代を築いたスター選手たちが次々に引退、休養を宣言し、寂しくなるこのスポーツを。オリンピックチャンピオンである彼こそが支え、スケートファン以外の耳目もリンクに集め続けてほしい、と。

 その当時、報道関係者の見方は冷ややかだった。

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筆者

青嶋ひろの

青嶋ひろの(あおしま・ひろの) フリーライター

静岡県浜松市生まれ。2002年よりフィギュアスケートを取材。日本のトップ選手へのインタビュー集『フィギュアスケート日本女子 ファンブック』『フィギュアスケート日本男子 ファンブック Cutting Edge』を毎年刊行。著書に、『最強男子。 高橋大輔・織田信成・小塚崇彦 バンクーバー五輪フィギュアスケート男子日本代表リポート』(朝日新聞出版)、『浅田真央物語』『羽生結弦物語』(ともに角川つばさ文庫)、『フィギュアスケート男子3 最強日本、若き獅子たちの台頭 宇野昌磨・山本草太・田中刑事・日野龍樹・本田太一」(カドカワ・ミニッツブック、電子書店で配信)など。最新刊は、『百獣繚乱―フィギュアスケート日本男子―ソチからピョンチャンへ』(2015年12月16日発売、KADOKAWA)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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