充実ぶりはロシア女子チーム以上
2014年12月20日
バルセロナのグランプリファイナル、公式練習にて。
女子シングルは4人も参加したロシアの選手たち全員が、スケーターとしてあまりに素敵すぎて、ため息の連続だった。
3月、初めての世界選手権で4位に入ったアンナ・ポゴリラヤは、4人の中でも最も美しい、奇跡のように均整のとれた肢体の持ち主だ。
妖精の放つような不思議な色気の持ち主だが、ほかの3選手のような強い個性は持っていない。しかしこのアクのない美しさ、作り込んでいないしなやかさやのびやかさに、惹かれる人は多いだろう。
2013年は年齢が足りずに五輪への挑戦権もなかった15歳のエレーナ・ラジオノワは、ジュニアのころから躍動感いっぱいの演技、人間離れした動きのパワーで見る人を圧倒してしまう選手だった。
ひとつ年上のリプニツカヤが「月」だとすれば、ラジオノワは「太陽」の輝きを持った選手。2013年あたりから手足が急にのび、まだ自分の四肢の長さをもてあましている様が、かえって人形のようで愛らしくもある。しかしこの身体に彼女の踊り心がなじんだその時こそが、この人の本領発揮の時だろう。
ソチ五輪で一気に日本でも人気者になったユリア・リプニツカヤは、16歳にしてすでにライバルから追いかけられる存在。13-14年、あそこまで濃いシーズンを送った分、今年は少し力が抜けているように見えるし、先シーズン話題になった「シンドラーのリスト」ほど、今シーズンの「ロミオとジュリエット」は滑りこめていないかもしれない。
しかしここからシーズン後半、ジャンプというより滑りのキレの部分で彼女らしさを取り戻す姿を、ぜひ見たいと思ってしまう。
そして、ずっと「ソチの星」と目されながらも、成長期の身体を巧くコントロールできず、夢の舞台を踏めなかったエリザベータ・タクタミシェワ。この人を見ていると、ロシアの妖精たちもこうして成長して、美しい人間の女性になるのか、と思ってしまう。
4人の中では彼女ひとりだけが、女性の情愛の強さや深さを、心地良い人間の生命力を目いっぱい放ち、ふつうの人間である私たちにいちばん近いところまで心がよりそうような演技を見せていた。
大きな期待をかけられ、過酷な練習やダイエットに耐え、身体の変化でジャンプが跳べなくなり、五輪代表も逃し……もう2度と氷の上で彼女を見られなくなってもおかしくないところまで突き落とされた選手だ。それでもタクタミシェワは、こうしてトップスケーターとして戻ってきただけでなく、人間の魂まで表現できる大人のパフォーマーになって帰ってきたのだ。
4人とも本当に素敵で、甲乙つけがたい。この4人で10試合戦えば10戦で違う結果が出るのでは、というくらい実力も拮抗している。もうこうなると、好みの問題だね、と、日本の報道陣もどのスケーターがお気に入りかを、言い合ったりしている。
そしてふと我に返り、これからどうしたらこんな選手たちに日本チームは勝てるのだろう……と呆然としてしまった。
ご存知の通り、ロシアチームは彼女たち4人だけではない。2011年の世界選手権銅メダリスト、アリョーナ・レオノワ。そしてもちろん、ソチ五輪金メダリスト、アデリナ・ソトニコワ。さらには今回ジュニアのファイナルに登場したセラフィマ・サハノビッチやエフゲニア・メドベージェワも、ベストスコアでは4選手に拮抗している。
途方に暮れてしまうような、ロシア女子の強さ――。
しかしそんな気持ちも、男子の公式練習が始まると、また違う驚きに取って代わられる。
羽生結弦、町田樹、無良崇人。揃ってファイナルに進出した日本の3人、それぞれがやはりうっとりするほどの滑りを、公式練習から見せているのだ。
練習から彼だけの世界を確実に作り出していたのは、町田樹。ベートーヴェンの「第九」という、こんなにもメジャーな曲を、もう「彼の音楽だ!」と感じさせてしまうパワーはさすがだ。
演じることが少し苦手だった無良崇人も、13-14シーズンは動きのやわらかさを身につけ、今シーズンはその技術を武器に、氷の上で「役者」になれるまでに進化している。
世界中の記者がロシア女子たちの姿に震撼したように、男子では誰もが、日本の3人から目を離せない。
彼らこそが、
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