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[3]羽生結弦「オペラ座」の「初演」

鳥肌が立った公式練習

青嶋ひろの フリーライター

 12月13日、フリープログラム。

 当日昼の公式練習にて、ちょっとした騒動があった。

 40分間の練習が開始されても、町田樹、無良崇人、ヴォロノフ(ロシア)、コフトゥン(ロシア)、フェルナンデス(スペイン)と5選手が滑り出しても、羽生結弦ひとりが姿を見せなかったのだ。

 「これは……何か起きた?」「もしや、棄権?」

 日本の報道陣はみな色めき立ち、羽生を、あるいは事情を知る関係者を探しにリンクからバックヤードへと走る。

 ふつうならばこれほど騒ぎにはならないのだろうが、こと、羽生結弦である。あの、中国杯の後である。

公式練習で拡大12月11日の練習で
 しかし大人たちが慌てているところに、当人は悠々と登場――。

 「今日は曲かけの時間が遅めだから(ショートプログラムの順位を受けて最終滑走)、少し遅れて練習を始めることにした」と、ただそれだけのことだという。

 公式練習を遅れてスタートさせること。ロシアのプルシェンコ、タクタミシェワなど、マイペースな選手たちは時々見せる姿だ。しかしあまり多い例ではないし、日本の選手ではとても珍しい。

 ただそれだけのことでも、大勢の大人たちを騒がせてしまう――今の羽生結弦の立ち位置、プライオリティを示す興味深い一幕ではあった。

 人心地つきつつ、練習を見ながら、人々は語る。

 「問題はフリーの4分30秒……彼の体力がもつかどうか、だな」

 ショートの出来がフリーでも再現できれば、何の問題もない。今日もジャンプは、ずいぶん調子よく跳んでいる。もうアクセルも4回転も、まったく問題はないようだ。

 ただ、惨憺たる出来だったNHK杯の時も、公式練習は好調だったのだ。練習で跳べているジャンプも、本番のメンタリティと音楽の中で成功できるかどうか、削ぎ取られる体力と戦いながら跳べるかどうかが、前の試合では難しかったのだ。

 しかし彼の曲かけの番となり、バルセロナ国際コンベンションセンターに「オペラ座の怪人」が高々と流れ――。

 練習始めに姿を見せなかった騒動も、体力への不安も、音楽の中で跳ぶ困難さも、すべて吹き飛ばすような、見事な4回転サルコウ、続く4回転トウループ。これは!

 得意のトリプルアクセルなど、「もちろん!」という勢いで、単発とコンビネーションジャンプ、ともに完璧に跳んで見せる。練習とはいえ、今シーズン初めて、フリーで4本の「大玉」ジャンプ、すべてを揃えて見せたのだ。

 振り付けは最初から最後まですべて見せることはなく、少しずつ動きを抜きながら。それでも「ここぞ!」という「見せどころ」はしっかり見せてくれるので、公式練習から会場に押しかけた熱心なお客さんたちは大喜びだ。

 見れば客席は、ジュニアの試合本番よりも埋まっているくらい、千客万来。

 地元スペイン、熱心なスケートファンが多いカナダ、ロシア、そして日本。どの国のお客さんからも注目されている羽生結弦だ。お目当ての選手のパーフェクトなジャンプを次々見せられて、今大会最高の盛り上がりとなる。まだ公式練習にもかかわららず!

 こうなってくると本人も、見せる気になってしまうだろう。衣装は練習着のままだが、

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筆者

青嶋ひろの

青嶋ひろの(あおしま・ひろの) フリーライター

静岡県浜松市生まれ。2002年よりフィギュアスケートを取材。日本のトップ選手へのインタビュー集『フィギュアスケート日本女子 ファンブック』『フィギュアスケート日本男子 ファンブック Cutting Edge』を毎年刊行。著書に、『最強男子。 高橋大輔・織田信成・小塚崇彦 バンクーバー五輪フィギュアスケート男子日本代表リポート』(朝日新聞出版)、『浅田真央物語』『羽生結弦物語』(ともに角川つばさ文庫)、『フィギュアスケート男子3 最強日本、若き獅子たちの台頭 宇野昌磨・山本草太・田中刑事・日野龍樹・本田太一」(カドカワ・ミニッツブック、電子書店で配信)など。最新刊は、『百獣繚乱―フィギュアスケート日本男子―ソチからピョンチャンへ』(2015年12月16日発売、KADOKAWA)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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