メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

[7]「跳べない」烙印を押された宇野昌磨の転機

トリプルアクセルをとばして、いきなり4回転ジャンパーに!?

青嶋ひろの フリーライター

 宇野昌磨――いったいどんな選手なのか。

 2007年から10年まで、全日本ノービスを4連覇(ノービスBで2連覇、ノービスAで2連覇)という記録は、日本のノービス史上、浅田真央と小塚崇彦しか達成していない大記録だ。「同世代では敵なし」を小学生のころから誇ってきたわけだが、当時から彼が注目されたのは、その年齢に似合わない表現技術だった。

 身体は現在でも160センチに満たない小柄な選手なのに、たぶん現在の日本選手の誰よりも、強いパワーで観客を包みこむ。13-14シーズンあたりから、ショートプログラムでもフリーでも神がかり的な演技を立て続けに見せ、客席では泣き出すお客さんも出てくるほどだ。

 演技に圧倒的なパワーがあるだけでなく、滑り姿も、とても美しい。

 日本代表合宿などを見学していると、たくさんのトップ選手の中にあって、ただ滑っているだけなのに彼が際立って美しいので、ちょっと目を疑ってしまうくらいだ。

ジュニアGPファイナル男子優勝の宇野昌磨(中央)と2位の山本草太(左)拡大ジュニアGPファイナルのフリー後、2位の山本草太選手(右)と
 スケーティング技術が高い、というよりも、滑りとともに氷上での立居振る舞い、基本的な身体の動かし方すべてが美しいのだろう。それは高橋大輔にも町田樹にも感じたことのない種類の、何やら根源的な魅力だ。

 ノービス、ジュニアで十分な成績を上げてきた。パフォーマーとしても評価が高く、既にたくさんのファンがいる。しかし――。

 「昌磨は、ダメだよ」

 そんな冷たい声が、実は昨シーズンまでの彼には、ずっと降りそそいでいたのだ。

 ダメだよ、あいつは世界では戦えない――そんな声の理由は、宇野昌磨が「跳べない選手」だったからだ。

 5種類のトリプルは、もちろん申し分ない。

 しかし、男子のトップに必須のトリプルアクセルが、高校生になってもなかなか跳べない。ジュニアに上がったころからもう何年も必死に練習しているのに、跳べそうな気配がない……。

 名古屋の選手たちからは、毎日毎日、彼が泣きながら練習をしている、という話を聞いた。トリプルアクセルは、一日100回跳んでいる、という証言もあった。

 ジャンプの練習において100回という回数は、どんなものか――ある日本代表選手が、かつて自慢げにこんな話をしてくれている。

 「一日に6種類のジャンプを10本ずつ跳ぶ、今までしたこともないハードな練習を今年はしてきました。これまでの僕ならば、1種類のジャンプを1日に2、3回で満足だったんですよ」

 そんな話を聞けば、100という数字がどれだけ尋常ではないかわかるだろうか。

 男子にとってのトリプルアクセル――たとえば羽生結弦は、中学2年生で跳べるようになったジャンプだ。宇野の同い年のボーヤン・ジン(中国)に至っては、既に何種類も4回転が跳べる。

 「昌磨君は演技は凄いけれど、ジャンプは跳べない」

 それはもう、日本の、というより、世界のジュニア界の定説だった。

 「跳べない選手は、ダメだよ」

 日本の先輩選手たちも、何人かが確かに彼を否定していた。

・・・ログインして読む
(残り:約2268文字/本文:約3512文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

青嶋ひろの

青嶋ひろの(あおしま・ひろの) フリーライター

静岡県浜松市生まれ。2002年よりフィギュアスケートを取材。日本のトップ選手へのインタビュー集『フィギュアスケート日本女子 ファンブック』『フィギュアスケート日本男子 ファンブック Cutting Edge』を毎年刊行。著書に、『最強男子。 高橋大輔・織田信成・小塚崇彦 バンクーバー五輪フィギュアスケート男子日本代表リポート』(朝日新聞出版)、『浅田真央物語』『羽生結弦物語』(ともに角川つばさ文庫)、『フィギュアスケート男子3 最強日本、若き獅子たちの台頭 宇野昌磨・山本草太・田中刑事・日野龍樹・本田太一」(カドカワ・ミニッツブック、電子書店で配信)など。最新刊は、『百獣繚乱―フィギュアスケート日本男子―ソチからピョンチャンへ』(2015年12月16日発売、KADOKAWA)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

青嶋ひろのの記事

もっと見る