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全豪オープンと2015年の錦織が向き合うもの

得意なハードコートで広がる全豪での勝ち上がりの可能性

倉沢鉄也 日鉄総研研究主幹

四大大会制覇の期待が高まる錦織圭=2014年1月、ユニクロ提供四大大会制覇の期待が高まる錦織圭=2014年1月、ユニクロ提供
 筆者が前回、錦織圭選手について述べたのは9月初旬の全米オープンテニス準優勝の直後であった。その時点で世界8位までランキングを上げた錦織圭選手ではあったが、そこから年末の最終戦まで上位のランキングが大きく変わることの少ないテニス男子ツアーで、錦織が最終ランキングを5位で終えることができたこともうれしい想定外だった。上位8人による最終戦(ATPワールドツアーファイナルズ:2014年11月9~16日)の出場権争奪を直前のパリ大会で勝ち抜き、ロンドンでの最終戦では「ビッグ4(過去10年、4大大会40大会の決勝に誰かが必ず進出し、36タイトルを獲った)」の一角で過去0勝の壁であったマレー選手(6位、元2位)を堂々倒してのベスト4、ジョコビッチ選手(1位)にも惜敗という形でシーズンを終えたことは、全米オープン準優勝に並ぶ大きな果実であった。

  技術・戦略面で2014年のシーズンがそれまでで大きく違ったことは、いくつかの報道でも明らかなとおり、攻撃的なベースラインプレーにある。相手とのかけひき途上のポジションをメートル単位で前に移し、前の打点で打つことで攻撃の展開を早くし、相手の球の速度を利用して打つことで自分の球速自体もアップさせていることができる。このライジング打法はミスヒットでコントロールミスを起こすリスクを抱えるが、もともと世界一、二と評価される素早いフットワーク、センスある面感覚、独特のショット選択の感覚、で補ってこの打法を確立させた。

 この結果、チャンスボールに対するジャンピング・フォアハンド「エア・ケイ」に象徴されるような、緩急の駆け引きの中で急激にスピードを上げる攻撃を選択するスタイルが目立たなくなり、世界トップが平然と続けるハイスピードのラリーの中で、均衡を破ることの難しいバックハンドからの攻撃が注目されるようになった、という見た目の変化が現れている。

 錦織の課題と考えられていた体力・精神力の面では、筆者がすでに述べていた
 ◆どんな相手でも無感覚に自分のテニスを続けられる体力面の自信
 ◆勝っても負けても無感覚に受け入れる、しかし‥モチベーションは高く保つ
 ◆優勝のチャンスがあるという意識自体が、錦織のコンディションを維持する
 ◆4大大会は、5セットマッチ(2~5時間)の試合、2週目の疲労と戦って、準決勝、決勝のチャンスとメンタリティーは、この極限状況で巡ってくる(以上、2014年05月21日WEBRONZA「トップ10錦織にチャンがもたらすチャンスの姿」)を、錦織は1年足らずでほぼすべて成し遂げてしまった。それは決して順調な道のりでも当然の結果でもなく、チームメンバーも含めた錦織の絶え間ない努力が、めぐりあわせたチャンスを最大限活かした結果である。

 前置きが長くなったが、以上の認識に立って、直近の全豪オープン(1月19日~2月1日)と、今シーズン全体の展望をしておく。テニスのトッププロたちのツアーは11~12月のオフシーズンに、わずかの休養と集中的なトレーニングを積み、怪我も癒して、万全の状態で1月からの世界ツアー開幕に臨んでくる。開幕3週目から2週間行われる全豪オープンは全員がベストコンディションで取り組む4大大会となる。もちろんこの試合の結果も重大だが、この1年の活躍を占う試合内容も重要な見どころとなる。錦織もまた2014年の飛躍のきっかけが、マイケル・チャン氏を新コーチに迎えてのオフシーズンのトレーニングと、全豪4回戦(ベスト8決め)でのナダル選手との対戦(当時2位。ストレート負けだが内容は紙一重の接戦)、であったことを明言している。

 一方、全豪オープンを含む開幕4週間は暑い地域(真夏のオーストラリア、熱帯のドーハ(カタール)とチェンナイ(タイ))で行われる。とくにメルボルンでの全豪オープンは毎年、外気温が摂氏35度を超えて試合中断になることもある過酷な環境での試合になることが多い。外部条件は全選手平等ではあるが、ほとんどの選手が

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