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14歳、樋口新葉 「世界女王」への道(中)

ナチュラルにファニー

青嶋ひろの フリーライター

 世界ジュニアに向けて、見事にピーキングができたこと。

 しかしそれは、14歳の樋口新葉の見せる、強さのひとつに過ぎない。

 たとえば試合での勝因を聞くと、彼女ははっきりとこう答える。

 「自分の中で気持ちをしっかりコントロールできたことです。緊張はずっとしていたけれど、でも、集中できるくらいの緊張だったから、良かった。これからの試合でも集中力が途切れないように、気持ちをコントロールして臨みたいと思います。とにかく敵(ロシア勢のこと!)を意識せず、自分の目標だけを見て、しっかりクリアすることが大切です」

全日本選手権女子SPの演技後、ハイタッチを交わす樋口新葉201412拡大全日本選手権女子SPで=2014年12月
 なによりも必要な集中力の大切さも、よく知っている。

 さらに持っているのは、強い気持ちをまっすぐに出せる力。

 「彼女は目標を聞くと、カメラの前でも『勝ちたい』『表彰台に乗りたい』とはっきり言うんです。そして本当に達成してしまう! まさに有言実行です。今までの選手たち、特に女子選手たちにはいなかったタイプなんじゃないかな」

 とは、テレビ取材陣の言葉。

 確かに浅田真央も安藤美姫も、「勝ちます」「優勝します」と断言するほどの負けん気は見せなかった。心に強く思っていたとしても、メディアの前で大きな目標をはっきりと口にすることは、ほぼなかったのだ。

 高い集中力と負けん気が揃えば、こんなことだって起こる。今シーズンのジュニアグランプリシリーズ、チェコ大会での彼女を、岡島功治コーチはこう振り返ってくれた。

 「彼女が滑る直前、メドベージェワ(ロシア)がノーミスで116点を出したんです。そんな点数、新葉は出したことない。『うわ、116点……』って言いながら、リンクに出ていったんですよ。やばいな……と思って見ていたら、なんと、その点数を超えてしまった! これは……ちょっとは強くなったのかな。いや、かなり強くなったかなって、驚きましたね」

 試合で結果を出し、注目されれば、のしかかってくるのはプレッシャーだ。世界ジュニアでもショートプログラム3位で折り返した時、報道陣から「フリーでは優勝を狙って?」と無遠慮な言葉がかけられた。しかし彼女は、「いえ、表彰台を狙って」と自然に言い返してのけたのだ。

 「注目は最近になって大きくなったので、自分の中でまだ気持ちの整理がついてない感じ。ちょっとびっくりしています(笑)。でも、誰にも何も言われないより、みんなの目が自分に向いてくれるのはうれしいかな。これからもっと上に行くためには、そういうのも必要だと思うし。注目されることで『結果を残さないと!』という気持ちも、すごく出てきます。そういうプレッシャーは……若干はある。でもきっと、これからついてくるべきものだから……慣れかな!」

 急激に熱くなった視線を、こんなにもさらりと受け流してしまう選手が、今までいただろうか?

 思えば、スロースターターでシーズン前半はいつも人々を一喜一憂させていた浅田真央。そのときの悩みも幸福感も、ぜんぶスケートに現れてしまう直情径行の安藤美姫。試合本番に弱く、真の実力を出し切るまでずいぶん時間がかかった荒川静香。

 これまで私たちは、たくさんの天才たちを見てきたけれど、彼女たちははみな、どこか危うさがあった。それはもちろん、彼女たちの人間的な魅力でもあり、その苦しみや葛藤を見守ることにも大きな醍醐味があったのだが。

 樋口新葉には、そんな危うさがない。この年齢でもうピーキングが完璧にできたり、目標を臆せずに言いきれたり……そんなメンタルの強さに、私たちはただ圧倒されるばかり。なんの心配もいらないのだ。

 オリンピックチャンピオンの羽生結弦でさえ、

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筆者

青嶋ひろの

青嶋ひろの(あおしま・ひろの) フリーライター

静岡県浜松市生まれ。2002年よりフィギュアスケートを取材。日本のトップ選手へのインタビュー集『フィギュアスケート日本女子 ファンブック』『フィギュアスケート日本男子 ファンブック Cutting Edge』を毎年刊行。著書に、『最強男子。 高橋大輔・織田信成・小塚崇彦 バンクーバー五輪フィギュアスケート男子日本代表リポート』(朝日新聞出版)、『浅田真央物語』『羽生結弦物語』(ともに角川つばさ文庫)、『フィギュアスケート男子3 最強日本、若き獅子たちの台頭 宇野昌磨・山本草太・田中刑事・日野龍樹・本田太一」(カドカワ・ミニッツブック、電子書店で配信)など。最新刊は、『百獣繚乱―フィギュアスケート日本男子―ソチからピョンチャンへ』(2015年12月16日発売、KADOKAWA)。

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