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14歳、樋口新葉 「世界女王」への道(下)

これから何を足していくか

青嶋ひろの フリーライター

 様々な点で、特異。スペシャル。

 そんな樋口新葉だが、スケーターとしての魅力も、また他の選手たちと一線を画すものがある。

 踊りが得意、演技が巧み、というわけではない。むしろ、踊れても、きれいに振り付けをなぞれても、何かが足りない――そんなスケーターに、いつもほしいと思うもの。パワーだったり、存在感だったりが、彼女にはもうしっかりあるのだ。

 決して大きくはないあの身体で、大きな会場に集う人々すべてを惹きつけてしまう、引力。それこそが樋口新葉の魅力だ。

 もちろんその元となるのは、びっくりするほどのスピード。フィギュアスケートを見続けてきた目で見ても、速い。男子選手と比べても、速い。彼女は速い、ともう知っている目で見ても、いつでも目を疑いたくなるほど速い。ほんとうに力強い風がそこに吹いているようなスケートだ。

 なぜスピードが、ここまで人を魅了するのか。なぜスピードが、演技をこんなにも引き立たせてしまうのか、今一度考えてみたくなるほど。

 「やっぱり自分でも、一番自信があるのは滑りです。スケートの練習は、佐藤紀子先生(アイスダンス元日本代表)といっしょに、ずっとしてきました。先生には、クロスで滑るときには身体が前に傾(かし)がないように、とか、フリーレッグをしっかり伸ばすように、とか、指先までしっかり神経を行き届かせて、とか……いろいろ指導していただきました」

 彼女のメインコーチである岡島コーチの分析は、こうだ。

 「彼女は滑っている時の、体重の移動がとにかく速いんです。その動きのバランスがよく、エッジのイン・アウトの乗り分けもうまい。それでスピードがよく出るんでしょうね」

 さらに、そのスピードに乗って見せる四肢の動きも、癖がなく美しい。

 芝居がかった作りこんだ動きはしないけれど、身体がとてもナチュラルに、滑らかに動くのだ。時にほのかな色気も感じさせるほどのその美しさを、岡島コーチも高く評価している。

 「確かに身のこなしはいい。教えてもできることではないし、彼女が自分で、自然にできていることです。何気ない動き――ちょっとした、バックの滑りから前に向くだけのほんの小さな動きでも、流れが止まらないんです」

 コーチ陣のひとりは、他の選手を指導する時との違いも語ってくれる。

 「ふつうは、こちらがやって見せないとできないようなことを、新葉の場合は、自分でパッととできてしまうんです。たとえば『ここで手を上げて』と言うだけで、形になる動きで、さっと手を上げられる。その身のこなしは、天性のものですよね」

樋口新葉拡大多彩な表情を見せる樋口新葉
 そんな樋口新葉の、真骨頂。スピードに乗った所作の美しさを、世界ジュニアのフリーでは存分に見せてくれた。

 特にこの時期、プログラムは一年間じっくり滑ってきただけあり、振り付けのひとつひとつがしっかり沁みついて、身体にぴったりとまとっているようだ。

 ジャンプの動きまでもが、プログラムのアクセサリーのように、あまりにもナチュラルに嵌(はま)っている。特別な大技ではなく、軽々としたステップのひとつのように。

 そんなふうにどのエレメンツが入っても、プログラムは不自然に途切れることなく、流れが止まらない。

 さらに、リンクの外ではあまり見せない、生き生きとした笑顔! 

 張り付いた笑顔ではなく、くるくる変わる多彩な表情は、カメラマンたちも撮影していてとても楽しいと言う。

 たぶん、教えられたとおり、振り付けられたとおり、ではなく。身体を動かしたいように動かしている、その自由さ、喜び。彼女の滑りが発散しているのは、そんな美しさなのだ。

 しかし今回、ひとつ悔しくも興味深かったのは、

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筆者

青嶋ひろの

青嶋ひろの(あおしま・ひろの) フリーライター

静岡県浜松市生まれ。2002年よりフィギュアスケートを取材。日本のトップ選手へのインタビュー集『フィギュアスケート日本女子 ファンブック』『フィギュアスケート日本男子 ファンブック Cutting Edge』を毎年刊行。著書に、『最強男子。 高橋大輔・織田信成・小塚崇彦 バンクーバー五輪フィギュアスケート男子日本代表リポート』(朝日新聞出版)、『浅田真央物語』『羽生結弦物語』(ともに角川つばさ文庫)、『フィギュアスケート男子3 最強日本、若き獅子たちの台頭 宇野昌磨・山本草太・田中刑事・日野龍樹・本田太一」(カドカワ・ミニッツブック、電子書店で配信)など。最新刊は、『百獣繚乱―フィギュアスケート日本男子―ソチからピョンチャンへ』(2015年12月16日発売、KADOKAWA)。

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