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世界選手権プレビュー 無良崇人の「意志」(上)

4年後がすぐ見えてきた理由

青嶋ひろの フリーライター

 早いもので、フィギュアスケートシーズンももう終盤。

 残るビッグイベントは、3月の世界選手権、4月の国別対抗戦のみとなってしまった。話題性も注目度も、もっと控えめになっていいはずの、アフター五輪シーズン。しかし予想に反し、いまだその動静から目が離せないのが、日本の男子シングル勢だ。

 全日本選手権から、シーズン後半の各戦へ。主要選手の動きを改めて追ってみたい。

 全日本選手権、5位――。

 シーズン序盤、優勝したスケートカナダでの滑りを思えば、こんな順位には納得がいかない、と憤りたくなるのが無良崇人だ。

 小塚崇彦、町田樹、そして無良崇人。

 彼ら3人には、個人的に少し特別な思い入れがある。

世界選手権に向けて練習をする無良崇人拡大世界選手権に向けて練習をする無良崇人=中国・上海
 筆者が日本の男子を本格的に取材し始めた当時(2005年)、高橋大輔や織田信成は、若いながら既に世界的に名の知れた選手だった。

 その下の世代に当たる3人は、小塚が高校2年、町田が高校1年、無良が中学3年。ひとつずつ年の違う彼らは、ジュニアを舞台にひとつひとつ実績を積み、「日本の男子、まだまだ出てくるぞ!」と世界にアピールしつつあったのだ。

 この世代では飛びぬけて才能があり、小さなころからずっとスポーツエリートの道を突っ走ってきた3人だ。

 いつか世界のトップに立ってやる!という気概をあらわにしていたわけではないけれど、少年らしい凛としたプライドが、滑りにも、その言葉にもあふれ出ていた。

 「みんなが上手くて、大変といえば大変だけれど……一人で孤独にがんばってるより、ライバルがいるから張り合いがある、これも確かです。他の誰かががんばってるから自分もやんなきゃ……なんてちょっと消極的かもしれないけれど、そんな気持ちのおかげでがんばれることだって、やっぱりある。近くにいい競争相手がいるからこそ、練習にも熱が入るってこと、絶対あるんですよ」(小塚)

 「スケートをここまでやってきて……ショックなこともいっぱいあった。でも、嫌なことが続いたぶん、いいこともたくさんあるから、やっぱり続けてきて良かったな、って思います。特に自信を持って試合に出て、全日本ジュニアで優勝できた時は、ほんとにうれしかった。最初は親の勧めで始めただけなのに、スケートやってなかったら、今、僕は何やってたんだろうって……ほんとに不思議です」(町田)

 「上手くいかなかった年の経験も、きっと自分を苦しめてるばかりじゃない。それ以前に比べたら、ジュニアグランプリファイナルとか、こんなにたくさん出たことない!ってくらい試合に出たことで、試合をどう運んでいくかも分かってきました。それまでの僕は、ただ何も考えず、試合をこなすだけって感じだった。今はこうしていろいろ考えるようになったのは、成長した証じゃないかな」(無良)

 若いながらもトップアスリートらしいきらめきを見せつつ、でも素顔の彼らは、揃ってやんちゃ坊だ。2007年ごろだろうか。夏の合宿で町田樹を取材していると、小塚と無良が面白がって茶々を入れてくる。その一幕が、なんだかいつまでも忘れられない。

 「やっぱり演技力では、樹に勝てへんような気がするなあ」(無良)
 「そんなことない、僕も特別努力してるわけじゃないし。きれいに滑ろう、とか意識はしてるけど……」(町田)
 「自然にできてる、それがすごいことだと思うなあ」(無良)
 「僕は努力してるのに、全然出来ないよ!」(小塚)
 「樹は誰よりも情熱的だしね」(無良)
 「そうかなあ。たまたま去年まで滑ってた曲が情熱的だっただけじゃない?」(町田)
 「樹を見てると、哀愁って感じもするよ」(小塚)
 「哀愁って何?」(町田)
 「うーん、じわーっと……なんか出てくるもの」(小塚)

 ひとたび試合が始まれば、同じ氷の上で火花を散らす同士である。

 実際この前のシーズン、全日本ジュニアでは絶対的な優勝候補だった無良を町田がくだし、悔しさと晴れがましさをあらわにした同士だ。その次の冬にはまた立場が逆転するなど、追いつ追われつしながら揃って成長を続けている。

 ふだんの練習リンクでは、一人の男の子に対し女の子が10人、という男女比の環境で育った彼らだ。貴重な同性のスケート仲間と、オフタイムは気安くじゃれあいながらも、本気の勝負では一歩も譲らない。

 そんな日本の、男子フィギュアスケートならではの気持ちのいい空気を教えてくれたのも、彼らだった。

 3人が3人とも競って強くなって、高橋と織田の拓いた道を邁進して、いつかは世界の表彰台で、この中の誰かと誰かが肩を並べて笑ってくれたら……そんなふうに思いながら見ていた。

 そんな3人が、7年後――。ソチ五輪で滑るという大きな夢を叶えたひとりも、夢のまま散ったふたりも、それぞれの思いを胸に現役を続行した今シーズン。

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筆者

青嶋ひろの

青嶋ひろの(あおしま・ひろの) フリーライター

静岡県浜松市生まれ。2002年よりフィギュアスケートを取材。日本のトップ選手へのインタビュー集『フィギュアスケート日本女子 ファンブック』『フィギュアスケート日本男子 ファンブック Cutting Edge』を毎年刊行。著書に、『最強男子。 高橋大輔・織田信成・小塚崇彦 バンクーバー五輪フィギュアスケート男子日本代表リポート』(朝日新聞出版)、『浅田真央物語』『羽生結弦物語』(ともに角川つばさ文庫)、『フィギュアスケート男子3 最強日本、若き獅子たちの台頭 宇野昌磨・山本草太・田中刑事・日野龍樹・本田太一」(カドカワ・ミニッツブック、電子書店で配信)など。最新刊は、『百獣繚乱―フィギュアスケート日本男子―ソチからピョンチャンへ』(2015年12月16日発売、KADOKAWA)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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