大きな武器は、まだ、きっとある
2015年04月17日
世界選手権初出場、宮原知子の銀メダル獲得。
今年はアフター五輪、ニューカマーが頭角を現しやすいシーズンではあった。とはいえ、これだけロシア勢、アメリカ勢が強力ななかでの17歳の表彰台は、喜びを通り越して驚くばかりだ。
関西に凄い選手がいる……そんな噂が聞こえてきたのは、6年ほど前だろうか。
「知子ちゃんは本当に、練習大好きなんです。1時間30分の貸切練習中に、100本近くジャンプを跳ぶことだってある! 僕も一度、彼女が何本跳ぶか数えたことがあります。90本まで数えたけれど、あんまり跳ぶので途中からわからなくなっちゃったくらい(笑)。ただ、お父さんもお母さんも非常に忙しい方なので、なかなか遠いリンクまで送り迎えができず、練習に来られないこともあります。そんなときは、ずっと家で泣いているとか……」
そのころ聞いた田村岳斗コーチのこんな言葉が、彼女の最初のイメージだ。
とにかく、努力家。スケートが大好きで、よく練習する――そんな評価は、全日本チャンピオンになった今シーズンも、何も変わっていない。
名選手を多数輩出した濱田美栄門下にあって、「私が教えた中でも、一番のがんばり屋」とコーチに言わしめるほどの、練習の鬼だ。
「知子の練習は、いつも120点です。誰かに勝とうという気持ちからではなく、ただ自分が一生懸命やるだけ。自分に対して厳しいだけ。それで何かができてもできなくても、言い訳したり人のせいにしたりしない。感情を出すときも、人に不愉快な思いをさせるようなことはまったくないんです。それも、無理をしてるわけではない、元々の性格なんでしょうね。でも試合になると、勝負に対してひいちゃうこともあって、弱い部分にもなってしまうけれど……」とは、濱田コーチの弁。
素顔は恥ずかしがり屋で、引っ込み思案。取材エリアでも声が小さいことで知られているほどで、にぎやかにおしゃべりする彼女を見たことが無いほどだ。
そんな人間性は、宮原のスケートにもよく表われている。たとえばアジア女性の美しさ、強さ、しとやかさを表現した今季のフリー「ミス・サイゴン」。
美しく精緻に組み立てられたプログラムをよく理解し、腕の動きひとつ、顔の傾け方ひとつ、きっちり楽譜通り再現するように演じていく。
世界選手権のメダル。その価値はスケート界において、人々が思う以上に大きい。引退の際、「あれだけは、ひとつでいいから欲しかったな……」と、後ろ髪を引かれる選手がいる。がんばってがんばって、キャリアの最後にやっと手にして、それを花道として去っていく選手もいる。
そんな大きな勲章を、宮原知子はキャリアのごく初期に手にしてしまったのだ。うまくいけば浅田真央や羽生結弦、あるいはプルシェンコ(ロシア)のように、ここをスタート地点にトップに上り詰めていく、その最初の一歩のメダルになるのだろう。
しかし今年は、アフター五輪イヤー。この年に世界選手権で活躍した選手が、3年後の五輪まで走り続けるのは大変なことだ。特に女子シングルは、幼い選手でも台頭しやすい種目。
続々と新星が現れ、年上の選手を脅かしていくなか、世界のトップで過酷な戦いを続けるために……宮原には、今持てるものの他に何が必要だろうか。
今大会、女子で優勝したエリザベータ・タクタミシェワ(ロシア)は、史上6人目のトリプルアクセル成功者として話題になった。来シーズン以降、このジャンプに挑戦する選手が増えるのではないか、という予想もある。宮原にも、トリプルアクセルが必要? いや、そんな単純なものではないだろう。
なにか、もうひとつ。今の宮原にあともうひとつ、何があればいいのか――。
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