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初出場で世界選手権「銀」。宮原知子の可能性

大きな武器は、まだ、きっとある

青嶋ひろの フリーライター

 世界選手権初出場、宮原知子の銀メダル獲得。

 今年はアフター五輪、ニューカマーが頭角を現しやすいシーズンではあった。とはいえ、これだけロシア勢、アメリカ勢が強力ななかでの17歳の表彰台は、喜びを通り越して驚くばかりだ。

 関西に凄い選手がいる……そんな噂が聞こえてきたのは、6年ほど前だろうか。

 「知子ちゃんは本当に、練習大好きなんです。1時間30分の貸切練習中に、100本近くジャンプを跳ぶことだってある! 僕も一度、彼女が何本跳ぶか数えたことがあります。90本まで数えたけれど、あんまり跳ぶので途中からわからなくなっちゃったくらい(笑)。ただ、お父さんもお母さんも非常に忙しい方なので、なかなか遠いリンクまで送り迎えができず、練習に来られないこともあります。そんなときは、ずっと家で泣いているとか……」

 そのころ聞いた田村岳斗コーチのこんな言葉が、彼女の最初のイメージだ。

銀メダルを獲得した宮原知子銀メダルを獲得した世界選手権のフリーで
 ノービスBで優勝したころだから、まだ小学5年生。

 とにかく、努力家。スケートが大好きで、よく練習する――そんな評価は、全日本チャンピオンになった今シーズンも、何も変わっていない。

 名選手を多数輩出した濱田美栄門下にあって、「私が教えた中でも、一番のがんばり屋」とコーチに言わしめるほどの、練習の鬼だ。

 「知子の練習は、いつも120点です。誰かに勝とうという気持ちからではなく、ただ自分が一生懸命やるだけ。自分に対して厳しいだけ。それで何かができてもできなくても、言い訳したり人のせいにしたりしない。感情を出すときも、人に不愉快な思いをさせるようなことはまったくないんです。それも、無理をしてるわけではない、元々の性格なんでしょうね。でも試合になると、勝負に対してひいちゃうこともあって、弱い部分にもなってしまうけれど……」とは、濱田コーチの弁。

 素顔は恥ずかしがり屋で、引っ込み思案。取材エリアでも声が小さいことで知られているほどで、にぎやかにおしゃべりする彼女を見たことが無いほどだ。

 そんな人間性は、宮原のスケートにもよく表われている。たとえばアジア女性の美しさ、強さ、しとやかさを表現した今季のフリー「ミス・サイゴン」。

 美しく精緻に組み立てられたプログラムをよく理解し、腕の動きひとつ、顔の傾け方ひとつ、きっちり楽譜通り再現するように演じていく。

 世界選手権のメダル。その価値はスケート界において、人々が思う以上に大きい。引退の際、「あれだけは、ひとつでいいから欲しかったな……」と、後ろ髪を引かれる選手がいる。がんばってがんばって、キャリアの最後にやっと手にして、それを花道として去っていく選手もいる。

 そんな大きな勲章を、宮原知子はキャリアのごく初期に手にしてしまったのだ。うまくいけば浅田真央や羽生結弦、あるいはプルシェンコ(ロシア)のように、ここをスタート地点にトップに上り詰めていく、その最初の一歩のメダルになるのだろう。

あとひとつ、必要なこと

 しかし今年は、アフター五輪イヤー。この年に世界選手権で活躍した選手が、3年後の五輪まで走り続けるのは大変なことだ。特に女子シングルは、幼い選手でも台頭しやすい種目。

 続々と新星が現れ、年上の選手を脅かしていくなか、世界のトップで過酷な戦いを続けるために……宮原には、今持てるものの他に何が必要だろうか。

 今大会、女子で優勝したエリザベータ・タクタミシェワ(ロシア)は、史上6人目のトリプルアクセル成功者として話題になった。来シーズン以降、このジャンプに挑戦する選手が増えるのではないか、という予想もある。宮原にも、トリプルアクセルが必要? いや、そんな単純なものではないだろう。

 なにか、もうひとつ。今の宮原にあともうひとつ、何があればいいのか――。

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