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浅田真央の真意と「現役続行報道」(上)

「練習をしている」という第一報が一人歩きして……

青嶋ひろの フリーライター

 フィギュアスケートオフシーズンの話題は、これしかない――シーズン終了直後から、多くのメディアが浅田真央の去就について注目し、ほんとうに多くの情報が飛び交っていた。

 「やめちゃうみたいだね」「やめるって聞いたんですけど」

 そんな声ばかりが聞こえてくる時期もあった。かと思えば次の日には、

 「真央ちゃん、練習してるって!」「競技に戻りたいって、言ってるらしい……」

 真逆の情報がいきなり増えて、また元に戻って……そんなことがずっと続いていたのだ。

 メールやLINEなど、関係者とのやり取りを今見返すと可笑しい。

 ここ1カ月ほど、熱心なメディア関係者はこぞって右往左往していたのだ。大の大人が華奢な女の子ひとりに大いにふりまわされる日々が、また戻ってきたのか、としみじみと思う。

 とにかく今回ばかりは、情報は錯綜していた。そのくらい、皆が何かを言いたかったのだろう。そのくらい、彼女自身も迷いに迷っていたのだろう。

 そしてこの春聞いた中で、いちばん深く残っているのが、この言葉だ。

 「最近の真央ちゃんの練習……もうオフの人の練習じゃ、ないです」

 中京大のリンクで練習している後輩選手のひとこと。

 ああ、と思った。「世界一練習する」と言われた彼女が、また滑り始めたのか。

 止まっていた古いフィルムがまた動き出したように、不思議にときめいてしまった。

アイスショーの記者会見で現役続行を表明した浅田真央。多くの報道陣が集まった20150518本来は、アイスショーの記者会見の予定だった=2015年5月18日
 おそらく彼女が今シーズンについて語るのは、5月18日のアイスショーの記者会見。その日程が見えてからは、ざわめきは一層大きくなっていく。

 「知りたい人がいて、情報を持っているのならば、それを書くのが僕らの仕事です」

 14―15シーズンは記者会見前、スポーツ紙一紙が「一年休養」と報じスクープを取った形となったから、「今年も」「今年こそは」としのぎを削る人々が少なからずいた。どこがいちばん最初に報じたかなど、メディアの人々以外は誰も気にしていないだろうに。

 「そんなことは皆、わかっています。でもそこで戦うのが、僕らのモチベーションなんです」

 結果、最初に流れたのは、特にニュース性のない一報だった。

 「真央、現役続行を視野に練習を再開」

 通信社の配信だったため、翌朝のスポーツ紙を中心に一斉に報道される形となったが、内容は「引退」でも「現役復帰」でもない。彼女自身や所属事務所、大学などからの正式な発表でもない。ただ、「練習をしている」というだけの本来ならばたいしたニュースでもない一報。それが浅田真央というだけで、大騒ぎになってしまった。

 特に直接取材をしていない、二次情報を流すだけのメディアの拡大解釈は凄まじかった。元の記事はあくまで、「現役続行を視野に」にすぎないのに、「現役続行!」と言い切る、あるいはそう思わせる報道が多すぎはしなかったか。

 彼女はまだ、一言も発してもいないのに

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