メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

監督の野心と自信喪失の代表のギャップが生む不安

サッカー日本代表、勝利の女神に見放され154位のシンガポールとスコアレスドロー

増島みどり スポーツライター

シンガポール戦の前半、右コーナーキックに頭であわせる槙野(20)=2015年6月16日、埼玉スタジアム拡大シンガポール戦の前半、右コーナーキックに頭であわせる槙野(20)=2015年6月16日、埼玉スタジアム
 埼玉スタジアムに密かに眠る「サッカーの女神」を知る者たちにとって、それは何とも不吉なシーンだった。もしかすると、コイントスに立ち合っていた長谷部誠主将自身が、誰よりも早く「嫌な予感」を抱いていたのかもしれない。

 ワールドカップ(W杯)ロシア大会2次予選初戦、シンガポール(16日)との試合前、主将同士が審判と握手を交わしコイントスが行われた。シンガポールは前半、ベンチから見て右のエンドを選択。日本はベンチから向かって左エンドに先に攻めることになった。後半は右エンドで試合を終える。かつて埼玉スタジアムでの激戦で、日本代表絶体絶命のピンチをロスタイムに何度も救ってくれた「左エンドの女神」が眠る場所とは、反対側のゴールになる。

 ジーコ監督指揮下の06年ドイツ大会を目指すアジア1次予選(04年)初戦、オマーン戦終了間際、久保竜彦の決勝ゴールが決まったのも、同大会最終予選北朝鮮戦で大黒将志の奇跡の逆転ゴールを呼んだのも、前回ブラジル大会アジア3次予選初戦の北朝鮮戦を吉田麻也の決勝点で逃げ切ったのも、全てロスタイム、左エンドの女神が眠るゴールだった。コイントスで後半右エンドに攻めることになった日本代表は、この時点で勝利の女神に見放されていたのだろうか。

決定力不足より深刻な、ブラジルW杯から失い続けている自信

 シュート23本を放ちながら1ゴールも奪えなかった決定力を嘆くのは当然だ。しかし決定力以前に深刻なのは、自信喪失である。シュートには力が入らず、むしろチャンスに慌て、まるで吸い込まれるようにシンガポールGK・イズワンの手元へと行ってしまった。

 ちょうど1年前、大きな目標を抱いて臨んだはずのブラジルW杯では、1人欠いたギリシャから最後まで得点できずにスコアレスドローで終了。このドローは、代表に精神的な打撃を与えた。自信を失い、それが、競技中の動作そのものに影響を及ぼしてしまうとされる「イップス=Yips」、それも集団イップスのような状態の始まりになってしまったように見える。

 W杯グループリーグ1分けでの敗退から立ち直り、アギーレ新監督のもと連覇を狙ったアジアカップ(今年1月)では、UAEにPK戦の激闘の末に敗れて5大会ぶりに4強にさえ進出できずに終わる。それぞれが欧州の、国内のクラブでの成長を胸に誓ったが、今度はアギーレ監督との契約解除が決まり、出直しに舵を切った選手たちのメンタルは一層混乱したはずだ。

 熱血指導で、選手に寄り添うハリルホジッチ監督ももちろん、この自信喪失がどれほど日本代表(世界ランク52位)のパフォーマンスに影響を及ぼしている大問題かを熟知している。3カ月前の就任直後から「選手の自信を取り戻してあげたい」それを繰り返してきた。個人面談を何度も行い

・・・ログインして読む
(残り:約792文字/本文:約1945文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

増島みどり

増島みどり(ますじま・みどり) スポーツライター

1961年生まれ。学習院大卒。84年、日刊スポーツ新聞に入社、アマチュアスポーツ、プロ野球・巨人、サッカーなどを担当し、97年からフリー。88年のソウルを皮切りに夏季、冬季の五輪やサッカーW杯、各競技の世界選手権を現地で取材。98年W杯フランス大会に出場した代表選手のインタビューをまとめた『6月の軌跡』(ミズノスポーツライター賞)、中田英寿のドキュメント『In his Times』、近著の『ゆだねて束ねる――ザッケローニの仕事』など著書多数。

増島みどりの記事

もっと見る