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猛暑のなか大文字五山の送り火に祈りをのせて

8月16日、京の人々は365日のうちの30分間に精霊を見送る

薄雲鈴代 ライター

浮かび上がった「鳥居形」の送り火=2010年8月16日、京都市右京区、鳥居形松明保存会提供浮かび上がった「鳥居形」の送り火=2010年8月16日、京都市右京区、鳥居形松明保存会提供
 京都は連日の猛暑である。京都の街なかを歩いていると、盆地特有の蒸暑さに参ってしまって、ついつい不機嫌になる。そんなとき、翠巒の東山如意ヶ嶽を見る。山中の緑の中に、「大」の文字がくっきりと映える。一画80メートル、二画160メートル、三画120メートルの大文字が山肌の色を浮き彫りにしている。この猛暑のなか、送り火の準備のために保存会の人々が草刈りに勤しんでいるのだ。それゆえ、この時季、昼日なかの大文字が美しい。

 下界にいて、暑い暑いと文句をたれているが、山上ではどれほど大変だろうといつも想う。送り火を目前に、蔓延る雑草を取り、山路の補修に余念がない。五山の送り火は、山麓に暮らす人々の有志で、連綿と受け継がれている。

 わたしたちは、8月16日の夕刻に鴨川あたりに夕涼みに出て、送り火を眺めるだけである。午後8時ちょうどに大文字、8時5分に「妙」「法」が同じタイミグで点く。8時10分に船形、8時15分に大文字(左)、8時20分に鳥居形と、5分刻みで五山に火が灯る。五山の灯を全部見ようと躍起になっている観光客からは「えっ、早すぎる。もう終わった」と騒いでいる声が聞こえる。街なかから眺める者にとっては、あっと言う間の刹那の美であるが、保存会の方々にとっては一年を通じての一コマである。

 たとえば如意ヶ嶽の大文字には、75基の火床が置かれ、薪600束、松葉に麦わらが用意される。一年の始めにアカマツが選定され、

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