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携帯電話の車内通話、あとはマナーの議論だけ

利用制限は不可能、「優先席電源オフやマナーモード推奨」を撤回するキャンペーンを

倉沢鉄也 日鉄総研研究主幹

東海道新幹線のデッキで携帯電話の通話をするのは日常風景だ=2012年2月、JR新大阪駅拡大東海道新幹線のデッキで携帯電話の通話をするのは日常風景だ=2012年2月、JR新大阪駅
 電車等の優先席で、なぜケータイ(スマホ、タブレット含む)は電源オフにしなければならなくなったのか。

 法制度上は、違反でも何でもない。これが自動車運転中や航空機搭乗中との決定的違いだ。自動車は法律に明記された運転手の注意義務を果たせない可能性が高い行為の一つとして、法が定めた行政処分「反則」の中でケータイ使用を明確に禁止されている。しかも自転車には反則が制定されていないので、この原因での事故時はいきなり厳罰になる。航空機も法律で厳罰(機長権限による利用中止の強制)が規定されていたが、運航に関わる時点の電波の発信さえしなければ「航空モード」等の活用による利用制限は大きく緩和された。電車・バスには利用禁止の法規制はなく、単なる事業者のキャンペーンに過ぎない。

 そのキャンペーンの経緯は朝日新聞デジタル2015年8月11日記事「優先席付近の携帯オフは必要? 鉄道会社、ルール変更も」など報道記事に詳しいが、無線電波を管轄する総務省のガイドラインにより、心臓ペースメーカーへの影響について22センチ以上なら影響なし(1996年)、以下、15センチ以内(2013年)、影響なし(2014年)として定めたもので、アナログ電波終了、第2世代(mova等のPDC方式)終了を経て、より弱い出力でクリアな音声・高速データの通信が実現するようになった。1990年代に携帯電話の宣伝を担当していた広告代理店の知人もかつて「確かにデジタル電話になって、ケータイの長電話で頭痛くなることはなくなったね」と言っていたので、身体への影響はそれなりにあったのだろうが、その心配もないというのが総務省等の偽らざる実験結果だろう。

 優先席であろうがなかろうが体に近ければ強い電磁波を受ける(スピーカーの横で着信を受けるときの雑音のイメージがそれ)ので、当初(1997年)にJR東日本でアナウンスし始めた「満員電車で電源オフ」のほうが的確であり、優先席の座っている人と立っている人のケータイの距離は明らかに22センチ以上ある点で優先席にまつわるキャンペーンは当初から的外れだ。そもそもケータイは平時でも30秒に1回程度、待ち受けの微弱電波を最寄りの基地局アンテナと通信していて、都度切り替わる基地局の方向は誰にもわからないので、多数の人体越しに電波が通り抜けている実態などいくらでもある。

 科学的に証明されつつあり、医療や電波の専門家もGOサインを出しているという(上記朝日新聞デジタル記事など)中で、事業者が人々の不安を心配する必要は何もない。いよいよ課題は一般国民に植え付けられた「優先席だから、使ってはダメ」という論理レスな先入観の完全除去と、単なる公共空間でのマナー・エチケットの境目をクリアにするキャンペーンの量、その結果の社会的ロス(乗客同士のトラブルによる遅延や職員の手間等)の削減効果の現出だけだ。

 公共交通の車内でのマナー・エチケットについて、一般国民の意識は変わったのか。国勢調査に即した割り付けで行われたアンケート調査では、「電源をONのままで電車やバスの優先席付近に乗っている」他人を「不快・危険と感じる」という回答が2010年から2015年で1.3ポイント減(52.1%→50.8%)と変わらない一方、「マナーモードにしないで電車やバスに乗っている」他人を「不快・危険と感じる」という回答がその5年間で7.8ポイント減(69.4%→61.6%)となり、マナー・エチケットに関する十数項目の設問中最も減少している。

  着信音に対して社会の公共意識がもう受容しつつあるとともに、着信する以上使用するので、あとは電波の有無にかかわらず、ケータイを使っていること自体に対する2015年時点のマナー意識の境界線設定だけ、となる(以上モバイル社会研究所『モバイルコミュニケーション2014-15』より)。

 前述朝日新聞デジタル記事で紹介されている「70代の男がタブレットを

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筆者

倉沢鉄也

倉沢鉄也(くらさわ・てつや) 日鉄総研研究主幹

1969年生まれ。東大法学部卒。(株)電通総研、(株)日本総合研究所を経て2014年4月より現職。専門はメディアビジネス、自動車交通のIT化。ライフスタイルの変化などが政策やビジネスに与える影響について幅広く調査研究、提言を行う。著書に『ITSビジネスの処方箋』『ITSビジネスの未来地図』など。

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