供用開始2年半で三つの穴、石灰岩間の土砂移動で空洞? 注目の事業認定取り消し訴訟
2015年09月25日
「南(ぱい)ぬ島石垣空港」の愛称を持つ沖縄県・石垣島の新石垣空港は供用開始から2年半しか経っていない新しい施設である。それなのに、空港管理者である沖縄県が7月末ごろから、あらためて地中内部の状態を確認するための地盤調査をする事態になっている。滑走路をはさんで海側のり面と着陸帯に2カ所の陥没が発生しているからだ。
市民団体の「八重山・白保(しらほ)の海を守る会」(東京)が、地盤の安全性についての懸念を繰り返し指摘し、警鐘を鳴らしてきた事態が現実となったのだ。
「守る会」の生島融事務局長によると、2カ所の陥没は、県が公表しなかったため、いずれも「守る会」が公文書開示請求で明らかになった。海側ののり面の陥没は2013年3月の供用開始から半年間で発生した。一方、着陸帯の陥没は今年5月7日、新石垣空港管理事務所の職員が滑走路横の着陸帯に穴があいているのを発見した。
着陸帯の陥没は直径5~6メートルの円形内に三つの穴が開いていた。この箇所の直下には、「B洞地下水系」と呼ばれる水みちが通っていることがわかっており、これまでに学術調査委員会の一員として建設地を調べたことのある大阪経済法科大の浦田健作客員教授(カルストシステム学)は「カルスト地域でよく起こる土壌陥没(カルスト土壌陥没)だと思われる」と指摘する。カルスト土壌陥没は、石灰岩の間を埋めていた土砂が地下水の流れなどによって下方に移動することで空洞が次第に上方に拡大して、ついには地表面に到達して陥没する現象だという。浦田さんは「すでに滑走路の地下でも同様の現象が発生していると考えるべきだ」と懸念している。
生島事務局長によると、海側のり面と着陸帯の陥没は、いずれもB洞地下水系で発生している。B洞地下水系は滑走路の下を横切っており、「これを放置したまま供用を続けることは、重大な事故の発生も予想され、非難のそしりを免れない」と県側の姿勢を強く批判する。
新空港はカルスト(琉球石灰岩)台地に建設されている。新空港の建設地は、背後の山から降雨などによる流入水が集まるカルスト台地だ。沖縄で琉球石灰岩地域に建設されている空港はほかにもあるが、雨水が集中して流入してくる地域に民間用の空港が建設されている例はないそうだ。
滑走路直下の洞窟などについて、沖縄県から委託された元日本洞窟学会副会長でNPO法人・沖縄鍾乳洞協会の山内平三郎理事長が04年から3度にわたり調査した。その結果、滑走路直下にはいくつもの洞窟があり、主要なものだけでも3本の大きな洞窟地下水系が山から海に向けて走っていた。
山内理事長は洞窟には崩落の危険性があると指摘し、安全対策として「最低3年のくわしい調査が必要で、空港の設計は、この作業が進まない限り行うことはできない」と提言した。ところが、県は洞窟の調査をすることなく、06年10月に工事に着手した。
県は工事着手の前に、安全性について判断する建設工法検討委員会を計10回、建設工法モニタリング委員会を5回開いた。洞窟の崩壊防止工事を決めた第10回の建設工法検討委を含め、両委員会の議事録には山内理事長の報告書を検討したやりとりは見あたらない。
長い年月を要したゆえに、建設工事を急ぐ沖縄県の気持ちがわからないではないが、県自らが委託した専門家が、洞窟の内部がどうなっているかは不明なので、それを詳しく調べるべきだと主張していたのだ。いわば内部からのそんな声にさえ耳を傾けようとしなかった県の姿勢が、いまの事態を招いたとも言えるだろう。
「守る会」は新石垣空港にからむ裁判をこれまで計4件起こしている。設置許可処分取り消し請求訴訟、事業認定取り消し請求訴訟、完成検査合格処分取り消し請求訴訟(以上の3件はいずれも東京地裁に提訴)、さらに那覇地裁に提訴した収用裁決取り消し請求訴訟の4件だ。
4件目の訴訟の一審判決は棄却判決だったのだが、その根拠を知ってあきれる。いまだ確定していない別件の訴訟の判決の「棄却判決」という結論を根拠にしており、驚くほかない。
その判決は「各訴訟において、原告らの主張が争点として審理され、いずれも理由がないものとされて請求が棄却されていることを踏まえると、別件設置許可処分及び別件事業認定に本件各裁決の取消しをもたらすような重大かつ明白な瑕疵があると認めることはできない」と
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