メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

山口組分裂で力量問われる警察

長く続く弘道会支配への反発で離脱か、壊滅作戦に必要な暴力団の非合法化を法的な実現

緒方健二 朝日新聞西部報道センター記者

拳銃調達の依頼電話

 「あれ、頼む」

 国内最大の指定暴力団、山口組(本拠・神戸市)の分裂が決定的となった8月下旬、関東に住む暴力団関係者の元にそんな電話が相次ぎました。9月上旬にかけてその数は8件に達したそうです。

  実弾もセットで拳銃を調達してくれ、との依頼です。依頼主は、離脱したグループと残留グループの双方といいます。取材に対し、この関係者は「抗争の準備だろう。実際に使うかどうかは別にして、この手の事態になればヤクザは備えを万全にしておくものだ」と説明しました。

直参72人中13人が当初離脱

 準構成員を含めると約2万3400人の勢力を持つ山口組は、数百の暴力団の集合体です。大所帯の運営を担っているのは、2次団体あるいは直系団体と呼ばれる組織の組長です。これらの組長は「直参(じきさん)」と呼ばれ、分裂前は72人いました。

詐欺容疑で山健組事務所へ家宅捜索に入る大阪府警の捜査員ら=2015年9月9日、神戸市中央区拡大詐欺容疑で山健組事務所へ家宅捜索に入る大阪府警の捜査員ら=2015年9月9日、神戸市中央区
  警察当局によれば、このうち山健組、宅見組、正木組、池田組、俠友会など13組織の組長が離脱したといいます。筆頭格は神戸市に本拠を置く山健組で、前任山口組組長の出身組織です。

  残留グループは、いまの山口組組長体制を支持する59人ですが、両グループによる綱引きが続いているといい、最終的な両グループの人数はわかりません。ある警察関係者は組員の人数の割合を「離脱組3、山口組7」と読んでいます。

分裂の背景

 なぜ分裂したのか。警察当局の見立てはこうです。

 いまの山口組トップである篠田建市組長(73)=通称・司忍=の出身組織は、名古屋市に本拠を置く弘道会である。ナンバー2の高山清司・若頭(68)も同じで、次期トップ候補と目されている。さらに、いまの弘道会トップの竹内照明会長(55)が2013年直参に取り立てられ、最近山口組若頭補佐になりました。「次の次の山口組トップも弘道会出身者とする布石」との見方があります。「山口組本流を自認する山健組派からすれば、長く弘道会支配が続くのは許せないのだろう」と警察幹部は解説します。

  2005年発足の篠田・高山執行部による組織運営への不満もあったようです。ミネラルウオーターなどの日用品を強制的に買うよう求められたり、月額100万円前後の「会費」を徴収されたりすることへの反発が直参の中にあったといいます。

  08年には篠田・高山体制による組織運営を批判する内容の文書が出て、そこに名前のあった直参10人前後が「絶縁」などの処分を受け、放逐されました。私は当時、そのうちの1人に取材しました。明確な執行部批判は避けたものの、従来と違うやり方への戸惑いを語っていたのが印象に残っています。

過去にも分裂、「山一抗争」で95人死傷

  山口組の分裂は今回が最初ではありません。大規模な過去の分裂は、いまから数えて二代前の山口組4代目組長に竹中正久・竹中組組長が就いた時にありました。

  戦後すぐの1946年から35年間、山口組組長だった田岡一雄・3代目組長が81年7月に急性心不全で死去、次の組長をだれにするかでもめたのです。有力候補だったナンバー2の若頭、山本健一・山健組組長が82年2月に病死して混迷が深まります。

  田岡3代目の後継は、3代目組長代行の山本広・山広組組長か、若頭の竹中正久・竹中組組長か。組織内で発言力を持っていた田岡組長夫人の決断で、竹中組長が4代目に選ばれたといわれています。

  これに山本広組長ら古参幹部が反発、84年6月に「一和会」を結成します。勢力は約6千人で、山口組の約4700人を上回っていました。ところが山口組の切り崩し工作で1年後には山口組1万人に対し、一和会3千人となりました。追い詰められた一和会側は85年1月26日、大阪府吹田市で竹中4代目組長を射殺します。

  これを機に山口組対一和会の襲撃の応酬が頻発します。87年2月まで続いた抗争が「山一抗争」です。抗争は計317回に及び、死者25人、負傷者70人を数えました。

  山一抗争後、5代目山口組組長に就いたのが山健組出身の渡辺芳則氏(2012年死去)でした。篠田・現組長は6代目です。

  参考までに、警察当局の資料によると山口組は百年前の1915年、兵庫県淡路島出身の山口春吉氏がで結成しました。2代目組長は実子の山口登氏です。

  離脱したグループが「神戸山口組」を名乗っているのも、こうした歴史を踏まえているからかも知れません。

警察は抗争を警戒

 少しでも暴力団捜査をかじった警察幹部なら「山一抗争」が治安をどれほど悪化させたかを知っています。山一抗争の過程で山口組は勢力をさらに伸ばしました。圧倒的な資金力と ・・・ログインして読む
(残り:約1905文字/本文:約3877文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

緒方健二

緒方健二(おがた・けんじ) 朝日新聞西部報道センター記者

朝日新聞社会部員(組織暴力専門記者)。1958年大分県生まれ、同志社大卒。毎日新聞社を経て88年入社、92年東京本社社会部。警視庁警備・公安、捜査1課、国税などを担当、99~2004年警視庁キャップ。東京社会部デスクを経て、04年から警察・事件担当の編集委員。地下鉄サリンなど一連のオウム真理教事件のほか数多の殺人、贈収賄、暴力団犯罪などを取材。17年4月から西部報道センター。

緒方健二の記事

もっと見る