大久保真紀(おおくぼ・まき) 朝日新聞編集委員(社会担当)
1963年生まれ。盛岡、静岡支局、東京本社社会部などを経て現職。著書に『買われる子どもたち』、『こどもの権利を買わないで――プンとミーチャのものがたり』、『明日がある――虐待を受けた子どもたち』、『ああ わが祖国よ――国を訴えた中国残留日本人孤児たち』、『中国残留日本人』など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
死刑囚の写真を撮影するトシ・カザマさんの問いかけ
「みなさんは人を殺す勇気がありますか?」
米国を中心に死刑囚の写真を撮影している写真家トシ・カザマさん(56)が来日、10月に東京都内で開かれた死刑制度について考える国際シンポジウムで、そう語りかけました。
死刑囚だけでなく、その家族、被害者遺族、執行人にも会い、事件現場、死刑執行室、注射器など死刑器具の写真も撮影してきたカザマさんの発する問いかけは、非常に重いものがありました。
「死刑は議論の上で成り立つものではない。死刑は生きている人間を殺すこと。僕がピストルでその人の頭を撃ち抜くことができるかどうか、ということなのです」
シンポジウムでは、死刑囚の肖像写真とともに、電気いすや執行室、最後の食事の場所、シャワー室などの写真を示しながら、話をしました。聴衆は息をのむように写真に見入りました。
電気いすの写真は、いすの座る部分の中央に少し黒ずんだ跡がありました。「これは焦げ跡。死刑囚の尾てい骨が焼けた跡です」とカザマさんは解説。さらに「これには、二つのスイッチがある。二人の執行人が同時にスイッチを入れる。どちらの線が(電気いすに)つながっているかわからないようにしている」と付け加えました。
日本の死刑は絞首刑です。執行室の横にボタン室があり、そこでボタンが押されると、床が抜けて死刑囚が上からつるされます。日本でもボタンは複数あって、だれが実際の執行をしたかはわからない形式になっています。だれが執行したのかわからないようにしているというのは、同じです。
カザマさんは台湾では大統領の特別許可を得て、死刑の現場を撮影しました。仏陀の絵がかけられている刑場には黒い砂が一面に敷かれているそうです。死刑囚はシーツを敷いて、その上に横たわり、執行人は死刑囚が死ぬまで銃を撃ち続ける、とカザマさんは話しました。写真を見せながら、「臓器提供するときは首の後ろ、提供しないときは心臓の後ろを狙って撃つ。黒い砂を敷いているのは、飛び散る血がわからないようにするためです」と説明しました。台湾では、写真家としては初めて撮影を許されたとのことです。
カザマさんは時々沈黙を交えながら、ため息をつきながら、言葉を絞り出すように話しました。「残虐なひどい事件があった。だから死刑が必要だ、と人は言います。しかしその死刑の重さは、すべて執行人にのしかかっている」
カザマさんが会った執行人たちは、苦悩を話してくれたそうです。日本でも、米国でも。米国の執行人は、カザマさんが見たこと感じたことを「世界中の人に伝えてほしい」と言いました。「(それで死刑が廃止されれば)俺は人を殺さなくていい」と。
カザマさんにとって、死刑はどこか遠いところで行われている、他人事ではなくなっています。「僕にとっては(死刑は)現実的なもの。議論の上のものではない。僕は人を殺す勇気はない。みなさんは人を殺す勇気がありますか?」
カザマさんが死刑囚の写真を撮りはじめたのは、1996年です。最初に撮影したのは、16歳のときに殺人事件を起こしたとされる17