初戦での「調整」が許されない立場
2015年11月05日
「同じジュニアの選手が、もう4回転を跳んでて、すごかった! 早く僕もああいうふうになりたいなあ……。いろいろな経験をしている選手の話を聞いたんですけど、海外の選手たちと一緒に練習することなんかも、憧れるなあ」
強くなるということは、ときめきを失うことなのかもしれない。
初めての戦いに臨む高揚。高い高いところにいる選手への憧れ。やっとつかんだ勝利の喜び……そんなものを、強くなればなるほど、彼らはどんどん失っていくのだ。
冒頭の言葉は、羽生結弦ジュニアデビュー前、13歳の夏のインタビューでのひとこま。
グランプリシリーズ第1戦、ショートプログラムで6位に沈んだ彼を見た時、ふいに思い出された言葉だ。
「憧れるなあ」――その声音も抑揚も、今でもはっきり耳に甦ってくる。まだ何も手にしていない少年の、幸せな言葉だ。
それから7年、彼の目の前で、憧れの選手たちは次々に屈していった。
いつの間にか彼は、「勝って当たり前」の存在になっていた。それはまぎれもなく栄光を掴んだ証拠だけれど、
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