メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

なぜ小保方氏は「不公平」と批判するのか(下)

「夢をひたむきに追う若い女がなによりも好き」という男性心理の罪

杉浦由美子 ノンフィクションライター

 前半では、早稲田は十分に小保方晴子氏に手厚くしているのでは?ということに言及した。後半では、そもそも小保方氏が早稲田を「不公平」とわざわざコメントする意図はなんなのか?ということについて考えてみたい。

早稲田大の博士号取り消しに決定に対する小保方晴子氏のコメントなどを説明する三木秀夫弁護士=2015年11月2日、大阪市拡大早稲田大の博士号取り消しに決定に対する小保方晴子氏のコメントなどを説明する三木秀夫弁護士=2015年11月2日、大阪市
 小保方晴子氏が代理人を通して発表したコメントの最後はこう締めくくられている。

 「博士論文執筆当時、この研究が広く役立つ研究に成長していく事を夢見て日々を過ごしていました。私の研究者の道は不本意にも門が閉じられてしまいましたが、いつか議論が研究の場に戻る日を期待し、今回再提出した博士論文や関連するデータは年度内をめどに随時公開して参る所存です」

 指導教官が「ここをこう訂正してください」と指導した部分が直ってない状態の論文を公開したら、また、ツイッターで他の研究者たちからボロクソに突っ込まれるのでは、と心配になる。

 だいたい、彼女はなぜ、この早稲田の審査に対してコメントをわざわざ発表したのだろうか。一連の騒動からの心労から健康を害し、ゆえに論文の訂正ができなかったのならば、静かにしている方が、心身を健やかにするためには良いように思える。

 それとも、彼女はいつものようにこう言いたかったのだろうか。「夢に向かって頑張っています」と。

夢を語るという媚態

 今回の小保方氏のコメントを読んで、私は柚木麻子の直木賞候補作『伊藤くんAtoE』(幻冬舎)という小説のあるシーンを思い出した。仕事を干された三十路の女性シナリオライター矢崎が、語り手の章に出てくる。矢崎と、彼女がかつて交際していたプロデューサー田村とのこんなやりとりが描かれている。

 ”田村が若いADと不倫していることは有名だ。彼は夢を追いかけるひたむきな若い女がなにより好きなのだ。一瞬、殴りつけたくなったが、我ながら、びっくりするほど甘えた声が出た。

 「頑張るから。私、頑張るから。田村さんが面白いって言ってくれるような作品書けるように頑張るから。少なくとも、伊藤よりははるかに面白いものを出す自信あるよ」

 健気に見えるように、まっすぐに田村を見上げる。かつてはこの視線を向ければ、田村はいちころだった。可愛くてたまらないように髪をくしゃくしゃに乱してくれた。しかし、今夜は、困惑したように目を逸らされただけだった。”

 このシーンで私が印象深く思ったのは、「彼は夢を追いかけるひたむきな若い女がなによりも好き」という箇所だった。普通、女性は夢を語らない。真面目にやっている人ほど口にしない。女性は目立つと叩かれるので、

・・・ログインして読む
(残り:約1333文字/本文:約2397文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

杉浦由美子

杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ) ノンフィクションライター

1970年生まれ。日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)卒業後、会社員や派遣社員などを経て、メタローグ社主催の「書評道場」に投稿していた文章が編集者の目にとまり、2005年から執筆活動を開始。『AERA』『婦人公論』『VOICE』『文藝春秋』などの総合誌でルポルタージュ記事を書き、『腐女子化する世界』『女子校力』『ママの世界はいつも戦争』など単著は現在12冊。

杉浦由美子の記事

もっと見る