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大阪ダブル選の維新圧勝の裏にどぶ板選挙

疲弊する大阪、あえて都構想を「棚上げ」し浮揚具体策で与野党協力のすすめ

前田史郎 朝日新聞論説委員

落胆した表情を見せる大阪市長選で落選した自民党推薦候補の柳本顕氏=2015年11月22日、大阪市北区拡大落胆した表情を見せる大阪市長選で落選した自民党推薦候補の柳本顕氏=2015年11月22日、大阪市北区
 大阪都構想が住民投票で否決されてからわずか半年。大阪の有権者がくだした選択は、都構想をもう一度やりたいと主張する大阪維新を圧勝させるという、正反対の結果だった。知事選には現職の松井一郎氏が再選、市長選では橋下徹大阪市長の後継の吉村洋文氏が初当選した。背景には維新が展開したどぶ板作戦と、相手を攻撃する橋下氏の得意の戦法があった。

 大差での勝利について、大阪維新の会の政調会長、浅田均・大阪府議は言った。

 「都構想が否決された後、反対票を投じた多くの人が『しまった』と思ったのではないか。家賃が上がるとか水道料金があがるとか、デマに振り回されていた。そう気づいた人が多かったと思う」

  ただいったん出た民意を軽視するかのような再挑戦は、「両刃の剣」でもあった。説明不足と批判された住民投票の敗北を反省し、維新は低姿勢でお願いに回る戦術をとった。

 投票まで約10日と迫った11月13日朝、浅田氏ら維新幹部は所属議員を緊急招集した。接戦が予想される市長選の運動方針を話し合うためだ。

  「もう一度、最初の闘いを思い出すんだ」

  浅田氏は、古参メンバーと一緒にゲキを飛ばした。

  最初の闘いとは、5年前の大阪市福島区の市議選の補欠選挙のことだ。維新の人気が未知数だった当時、橋下氏や同調する議員は路地裏まで入り、会う人すべてに握手して回った。

  今回は住民投票で反対票が多かった大阪市南部を重点区に指定し、運動員を集中した。橋下氏が何度も街宣に入り、翌日も翌々日も、駅で、繁華街で、所属議員が歩き回る。

  「1年生議員は選挙の苦労を知らない。電話しろといってもするところもないような議員もいる。それではだめ、と徹底した」と浅田氏は言う。

  ノルマは1人で1日に握手300人、電話600件。

  どぶ板作戦による票の掘り起こしが大差につながった。

 反維新側の戦略の失敗もあった。自民党は国政で対立する共産党や民主党の支援も受け、野合批判を招いた。維新の方が一本筋は通っている。そう感じた有権者は多かったようだ。

          ■

 だが、維新の訴え方にも問題が多かった。

 都構想は半年前に否決され、廃案になっている。正式な手続きを経て出た民意を打ち消すようなテーマ設定は強引だ。

 「過去に戻すか、前に進めるか」

 維新が今回の選挙で使ったスローガンだ。橋下氏の写真とこの言葉をあしらったポスターは、選挙前から府内のあちこちに張られた。二項対立が得意な維新らしいが、「過去」とはいつのことをさすのか。

 橋下氏がよく持ち出すのが、経営破綻した大阪南港のWTCビルなど破綻した施設だ。

  投開票日まで1週間と迫った11月15日、橋下氏は大阪市平野区で「みなさん、自民党、民主党、共産党の時代に戻していいんですか」と訴え、破綻施設の写真を示した。そして借金が1兆円になり、責任が反維新の各政党にあると断じた。

  わかりやすい話の進め方はさすがだ。しかし、例に挙げたWTCビルの着工は1991年、「フェスティバルゲート」の開業は97年、「海の時空館」の開業は2000年。バブル経済が崩壊し、大型リゾート施設が各地で行き詰まり、破綻に追い込まれた時代だ。破綻の責任が自民党などの議員にあるという論理は乱暴すぎる。

  議会と行政がなれ合いで決めてきた責任が大きいのは確かだ。ならば、大阪維新の会ができる2010年まで、松井氏をはじめ大阪維新の主要幹部は自民党議員だったことをどう説明するのだろう。

  市職員のカラ残業や厚遇問題まで「過去の失敗」と人のせいにするのはフェアではない。
敵をつくって攻撃し、対立構図を際立たせる橋下氏の手法は、時には相手に非があるような単純な構図にすりかえ、聴衆に平気で植え付けてしまう。

  平野区での演説は30分以上続いた。最高潮に達したころ、映画が幕を下ろすように拍手、喝采がおこり、人波は溜飲を下げたように ・・・ログインして読む
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筆者

前田史郎

前田史郎(まえだ・しろう) 朝日新聞論説委員

1961年生まれ。神戸、広島支局、東京・大阪社会部で事件や行政、核問題、厚生省クラブなどを担当。社会部デスク、教育エディター、大阪・社会部長、同編集局長補佐、論説委員、編集委員、論説副主幹(大阪駐在)を経て18年4月から現職。気象予報士。著書に『核兵器廃絶への道』(共著)。

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