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電車で「痴漢冤罪」に巻き込まれないために(上)

忘年会シーズンの師走、勾留されると否認を続ける限りは過酷な取り調べが続く

瀬木比呂志 明治大法科大学院教授

痴漢冤罪ドラマなどのロケの撮影も行われていた北総開発鉄道・公団線=2002年3月、千葉県内拡大痴漢冤罪ドラマなどのロケの撮影も行われていた北総開発鉄道・公団線=2002年3月、千葉県内
 年末には、各種の宴会、飲み会が増える。深夜の混み合った電車に乗る機会も多くなる。そこで、この機会に、痴漢冤罪に対する防衛策について書いておきたい。

 痴漢冤罪については、周防正行監督の映画『それでもボクはやってない』(2007年)で一躍クロースアップされたが、実は、昔からあること、まともな法律家なら誰でも知っていることだった。

 日本の刑事司法に各種の冤罪が多いことは、『ニッポンの裁判』(講談社現代新書)に詳しく記したとおりである。誰でも、たまたま事件に近い位置にいて、何らかの怪しい点があると思われれば、見込み捜査のターゲットにされうる。

 もちろん、冤罪は、どこの国にも、時代にも存在する。その意味では、刑事司法の避けられないリスク、宿痾であるともいえよう。

 しかし、冤罪の問題が日本の場合にことに大きいのは、「人質司法」と呼ばれる捜査手法と密室における過酷な取り調べ、そのことを始めとして刑事司法システム全体が徹底して社会防衛に重点を置いており、また、徹底して検察官主導であって、被疑者、被告人の権利には無関心であること、強大な検察の権限をチェックする適切な仕組みが存在しないこと、などの要素が相まって、冤罪が構造的に作り出されてきたし、その傾向が一向に改善されないという点にある。

  「人質司法」とは、身柄を拘束することによる精神的圧迫を利用して自白を得るやり方だ。日本の刑事司法の顕著な特徴であり、冤罪の温床となっている。

  まず、逮捕に続き、被疑者の勾留が行われる(なお、被疑者とは、捜査の対象となっているがまだ公訴を提起されていない者。被告人とは、公訴を提起された者。この違い、覚えてください)。

  被疑者の勾留は、原則10日間だが、制度上は20日間まで延長が可能であり、犯行を否認すれば20日間は勾留されることになる。逮捕から勾留までの期間を考えると、さらに、最大限3日間が加算される。たとえ比較的軽微な犯罪であっても、否認すれば、勾留されたまま、こんなに長く責め立てられる。

  裁判官による勾留の理由、ことに罪証隠滅・逃亡のおそれの判断は甘く、簡単に勾留が認められる。ことに、フリーターなどは、「身元のしっかりしていない人間」とみられやすい。勾留という ・・・ログインして読む
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筆者

瀬木比呂志

瀬木比呂志(せぎ・ひろし) 明治大法科大学院教授

1954年名古屋市生まれ。東京大学法学部在学中に司法試験に合格。裁判官として東京地裁、最高裁などに勤務、アメリカ留学。並行して研究、執筆や学会報告を行う。2012年から現職。専攻は民事訴訟法。著書に『絶望の裁判所』『リベラルアーツの学び方』『民事訴訟の本質と諸相』など多数。15年、著書『ニッポンの裁判』で第2回城山三郎賞を受賞。

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