2015年12月10日
1シーズンの休息を経て、試合の氷に帰って来た浅田真央を見て、なんだか最初は、幽霊を見ているような気分になったものだ。
昨年(2014年)5月、現役続行か、否か、進退を問われた彼女は確かに、「できないな」と言った。
ソチ五輪後の疲れ切ったような表情、また休息中のアイスショーで見せたいきいきした笑顔を見て、もう競技者としての浅田真央を見ることはないのだろう、と私も諦めていたのかもしれない。彼女自身だって、「もうこのまま引退してしまおう」と一度ならず思ったことがあるという。
1年を経ての、復帰。
言葉にすれば簡単だが、それがどれだけアスリートにとって過酷なことだったか。既に大きな実績を持つ彼女が、こうして試合に戻ってきたこと。それだけでも大変なことなのだ。
10月初旬のジャパンオープン。
まず、彼女の淡々とした練習風景に驚く。1年7カ月ぶりの試合の、公式練習。まわりが大騒ぎをしているのが馬鹿みたいに思えるほど、彼女は淡々と、いつも通り、昨日もこの場所にいたような顔をして滑っていた。
しかし以前と違うのは、練習から嘘のように軽々跳んでしまったトリプルアクセル。しかもこれまでとは違う、無理のない自然なアクセル。あまりにも簡単に跳んでしまうので、角度によっては「2A(ダブルアクセル)じゃなかった?」と疑いたくなるほどだ。
と、国際ジャッジのひとりもその変化に唸った。
「特に、テイクオフの姿勢。以前は前のめりになっていた上体が、今はまっすぐ向いている。自然な動きで跳べている分、ジャンプに高さも出ますし、高さが出ればアンダーローテ―ション(回転不足)もとられにくい」
ジャンプの修正――。簡単に言ってしまいがちだが、既に身につけてしまった技術、その癖を直すことは、ほんとうに大変なことだという。
「おそらく、新しくトリプルアクセルを身につけようとするよりも、3倍も4倍も難しいことなのです」
そんな荒業を、シーズン初戦の公式練習、浅田真央はしれっとした顔でやってのけてしまったのだ。
そして興味深かったのは、
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