メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

女性誌の今『DRESS』月刊休止で考える(上)

雑誌がイデオロギーを語れなくなったのはなぜか

杉浦由美子 ノンフィクションライター

書店の店頭に並ぶ女性誌=2014年3月、東京都渋谷区拡大書店の店頭に並ぶ女性誌=2014年3月、東京都渋谷区
 2013年に鳴り物入りで創刊した女性ファッション誌『DRESS』を覚えている方も多かろう。創刊にはエイベックス・グループの松浦勝人氏や音楽プロデューサーの秋元康氏などの著名人が関わり、山本由樹編集長は、「この雑誌では結婚の上位に恋をおく。恋をすることで独身女性たちがもっと輝き、もっと自由になれる。女性の解放のために社会の改革をしたい」(ブック・アサヒ・コム2013年4月2日)とコメントし、そのバブリーさから賛否両論で話題になった。どんなにバブル臭がしようと、雑誌として内容が充実していれば問題ないわけだが、残念ながら『DRESS』は月刊での発行を休止すると発表した。

 これを機に、本稿では、一読者としての視点から、なぜ、現在、女性誌が大きく変化している時期だということについて言及したい。前半では、ニュース雑誌や女性誌などの雑誌全体が独自のイデオロギーを語れないトレンドについて書き、後半では、その理由を分析したい。

雑誌としての意見を書くと、読者が反発する

 2000年代後半のことだ。有名ニュース誌の記者がこう話していた。

  「“うちの雑誌はこう考えます”というぐあいに、雑誌としての意見を書くと読者が嫌がるようになってきた。〝純粋に情報だけをくれ”というのが、購買者のニーズになってきている」

  たとえば、雑誌でTPP問題を特集するとしよう。その場合は、〝TPPはどんな内容になるのか”というデータだけが欲しくて、記事の最後に「ゆえに本誌はTPP反対である」「賛成である」という知見を書くと、「邪魔だ、いらない」と反発されるというわけだ。このトレンドを最もきちんと把握しているのが池上彰であろう。彼はテレビ番組や雑誌記事で、時事問題をわかりやすく説明することに徹していて、基本的に自分の主義主張は思想や意見を全面に押し出さない。かみ砕いて分かりやすく情報を提供し、視聴者や読者に「今、話した情報を元に、あなた自身で考えてみてください」と締めくくる。

ライフスタイルはイデオロギー

 冒頭で述べた『DRESS』創刊時の山本編集長のコメントをみて、「懐かしい感」があったのは、私だけではないはずだ。あのように、女性誌が独自のライフスタイルを提唱することがなくなっているからだ。40代向けのファッション誌、『STORY』(光文社)『GLOW』(宝島社)をみても、「こういう生活が素敵でしょ」という主張は感じられない。『STORY』のモデルはシングルマザーが目立つが、特に「独身で子供がいる生活が最高」とは煽っていない。

  「この冬はハイネックがトレンド。小顔効果が期待できます」という風に謳っても、「仕事を再開したら、子供に〝ママ素敵になったね”と言われるファッション」という風に一定のライフスタイル(ここではワーキングマザー)を称賛するようなことはしない。

  この傾向について、女性誌の30代女性編集者はいう。

 「ひとつのライフスタイルを前面に押し出すと、読者が反発したり、嫌気がさしたりするからです」

  女性はライフスタイルが多様であるがゆえに、どのライフスタイルを選択するかは、それこそイデオロギーの問題になってきます。非常にナイーブで、そのあたりを非常によく踏まえて、最近の女性誌はそのイデオロギーに踏み込まないように見出しやコピーを書くようになっているのだ。

 では、どうして、かつての女性誌は「こういうライフスタイルを目指しましょう」と訴えていたのか。それは、まず、理想とするライフスタイルを提示し、その生活を実現するために必要な商品情報を届け、広告収入を得るというビジネスモデルだからだ。

『負け犬』に憧れる

 2005年に私は出版業界に入ったが、その時にちょうど酒井順子『負け犬の遠吠え』(講談社)がベストセラーになっていた。その時にある雑誌編集者が「『負け犬』のライフスタイルに憧れて、読者はあの本を買って読んでいる」と話した。結婚せず、バリバリ働き、好きな洋服を買い、歌舞伎をみて、スポーツクラブに行き、セックスもする。そういう経済的な豊かさと、自由さをもつ都会の「30代独身キャリア」の生活にみな憧れたのだという。

 女性誌もそれと同じ売れ方をすると考えられていた。読者は雑誌で描かれる素敵なライフスタイルに憧れて、雑誌を買うとされていた。確かにそういう読者は私の周りにもいた。

 2000年代半ばだろうか。当時は集英社の『LEE』がとても好調だった。

・・・ログインして読む
(残り:約630文字/本文:約2537文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

杉浦由美子

杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ) ノンフィクションライター

1970年生まれ。日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)卒業後、会社員や派遣社員などを経て、メタローグ社主催の「書評道場」に投稿していた文章が編集者の目にとまり、2005年から執筆活動を開始。『AERA』『婦人公論』『VOICE』『文藝春秋』などの総合誌でルポルタージュ記事を書き、『腐女子化する世界』『女子校力』『ママの世界はいつも戦争』など単著は現在12冊。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

杉浦由美子の記事

もっと見る