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新聞の「軽減税率」適用に対する疑問

「報道編集」の重要性を国民に訴える活動が先だ

倉沢鉄也 日鉄総研研究主幹

与党税制協議会で税制大綱がまとまり、記者会見する自民・宮沢洋一税調会長(右)と公明・斉藤鉄夫税調会長=2015年12月16日、東京・霞が関与党税制協議会で税制大綱がまとまり、記者会見する自民・宮沢洋一税調会長(右)と公明・斉藤鉄夫税調会長=2015年12月16日、東京・霞が関
 2017年4月からの消費税10%に向けて、軽減税率の対象として、「新聞」が取り上げられることが決まった。食品の中に加工食品を入れるか入れないかという生活必需具合と同列に新聞が取り上げられること、の賛否はすでにさまざまに論じられている。

  強く推奨している日本新聞協会(Webサイト等)、電気や水道や被服などの生活必需品に優先して新聞が取り上げられている状況に疑義を唱える民主党(12/17の岡田代表や枝野幹事長の発言)など、多くの論点が示されている中、当の新聞各社の社説では「自由な言論と報道への軽減税率適用は『民主主義の必要経費』」(12/12産経新聞)、「与野党を問わず、活字文化を維持するために」(12/11毎日新聞)といった表現で自己弁護せざるをえない状況になっている。

 その一方、例えば朝日新聞は軽減税率の個別項目の選定過程自体を批判(12/13社説朝日新聞)しつつ、「新聞」のみが軽減税率対象となることに批判的なコメントの引用を行う(12/16)など、編集と経営(日本新聞協会加盟社)で異なる主張をするなどの動きも見られる。新聞の取り扱いについて事実報道以上は言及できていない状況になっている。

 12月16日には与党が2016年度の税制改正大綱を決定しているところである事実上もう決定的な事項ではあるが、本稿ではあえて強く批判する。軽減税率の対象に載せることがもし許されるのなら、それは「報道」それも「報道編集」であり、断じて「新聞」でも「活字文化」でもあるべきではない。

 新聞社は国民に真に必要な「第四の権力」としてのニュース報道のみを生業としておらず、中心的な収益基盤ですらない。新聞社の収益は、紙媒体の販売のみならず、そのニュース報道を知ろうとして新聞を手に取る人が大量にいるために発生する広告媒体の収入が約3割の規模で存在しておりであり、広告媒体を購入する広告主に報道の志高い活動を支えている自覚はない。

 そして、そのニュース報道は、新聞社やニュース通信社自身のWebサイトのみならず、テレビ局や一部雑誌や大小のネットジャーナリズム、あるいは現場を記録した一般国民によっても担われている。映像・音声も抜きにして報道を「活字文化」の一部とするのはあまりに時代遅れだ。新聞社の新聞以外のビジネス、新聞の販売形態によるビジネスの違いの説明は割愛するが、少なくともそれらは公共性の対象ではない。そう整理すると、新聞という紙媒体だけが公共性を持って軽減税率の対象になるという論理は成り立たない。

 日本社会が報道機関を支える必要性について、筆者はこのWEBRONZAでも繰り返し論じてきた(「記事の自動生成に見る『人間記者』の価値」(2014年8月22日)「報道機関は人材確保のあり方の再考を」(014年6月7日)、「報道事業の『収益のヘルシーさ』が本質」(2010年10月4日))。報道が正常に機能しない社会のリスクを回避するための、民間企業による経営的支援は必要と考える。そして報道の素材は現場の市民で集めることができても、高度な知見をもって国民に必要な情報を選び出し、残りを捨てる「報道編集機能」は限られた知見と訓練を経た人しか取り扱えない。その「報道編集機関」は公権力の関与なく市民社会が公共物として保持すべきものと考える。

 そのことと、報道機関が公的支援である軽減税率の対象になるべきか否か、生活必需品と同列に論じるべきか否かは、別に考えなければならない

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