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 たとえばソチ五輪男子銅メダリストのデニス・テン(カザフスタン)は、1シーズンのうちうまくいく試合は1戦か2戦だけ。グランプリシリーズで好成績を出すことはほとんどなく、グランプリファイナル出場経験もない。今シーズンはケガの影響もあったが、スケートアメリカ9位、エリック杯(フランス杯)4位。

 それでもテンの不調を心配する声は、上がっていない。彼はシーズン後半の世界選手権やオリンピックに絶妙にピークを合わせてくるし、それら重要な試合で結果を出せば、十分トップスケーターなのだ。

 トリノ五輪シーズンの荒川静香も、きっちりオリンピックに照準を合わせて1年を送っていたため、グランプリシリーズでは当時15歳の浅田真央に敗れもした。そのことを周囲から「ジュニアに負けるなんて」と揶揄されてしまい、苦い思いをしたという。

 羽生結弦のように、グランプリシリーズからマックスの力を出し尽くそうとする選手の方が珍しいし、誰もがあれをやっていたら気力が持たない。

日本の選手がもつ宿命

 浅田真央だってグランプリのひとつやふたつ、絶不調でもまったく問題ないのだ。その点が日本ではうまく理解されず、どの試合でも「がんばれがんばれ」、1試合でもうまくいかなければ「真央ちゃん、どうしちゃったの?」となってしまう……。

NHK杯エキシビションで拡大NHK杯のエキシビションで

 この10年、フィギュアスケートの商業的価値が上がってしまったことも、その大きな要因だろう。

 高い視聴率を取れるコンテンツとして、テレビはどの試合でも全力の演技を見せてほしいと望む。

 中国杯、NHK杯、全日本選手権はすべて違う放送局が放映権を持っているから、「うちで放送する試合でこそ、いい演技を見せてほしい!」という、そんなプレッシャーは、いつでも選手にかかっている。

 試合の後援企業、選手のスポンサー企業も同様だ。華々しく宣伝した試合が大いに盛り上がってもらわなければ困る。高いチケット代を払って会場を満員にしたファンだって、自分の見に行った試合こそ、素晴らしい戦いであってほしい……。

 こんな状況に選手が置かれている国は、世界中を見回しても、日本だけ。大きな国際試合に行けば日本の報道陣が群れを成している、という光景も、おなじみになってしまった。

 もうこれは、日本の選手たちが背負わなければならない宿命なのだろう。

 その裏返しとして、彼らの練習環境は向上し、スポンサーのバックアップなどの恩恵も受けている。浅田真央復帰によって現れた光景は、日本におけるこのスポーツと、それを取りまく状況の縮図のようにも見えた。

たった1戦の失敗が…… ・・・ログインして読む
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筆者

青嶋ひろの

青嶋ひろの(あおしま・ひろの) フリーライター

静岡県浜松市生まれ。2002年よりフィギュアスケートを取材。日本のトップ選手へのインタビュー集『フィギュアスケート日本女子 ファンブック』『フィギュアスケート日本男子 ファンブック Cutting Edge』を毎年刊行。著書に、『最強男子。 高橋大輔・織田信成・小塚崇彦 バンクーバー五輪フィギュアスケート男子日本代表リポート』(朝日新聞出版)、『浅田真央物語』『羽生結弦物語』(ともに角川つばさ文庫)、『フィギュアスケート男子3 最強日本、若き獅子たちの台頭 宇野昌磨・山本草太・田中刑事・日野龍樹・本田太一」(カドカワ・ミニッツブック、電子書店で配信)など。最新刊は、『百獣繚乱―フィギュアスケート日本男子―ソチからピョンチャンへ』(2015年12月16日発売、KADOKAWA)。

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