2015年12月28日
2015年11月、羽生結弦のNHK杯ショートプログラムは、記録ラッシュだった。
4回転‐3回転の自身初成功、SPで2度の4回転ジャンプ初成功、SPで4回転サルコウ初成功、そして、歴代最高得点106.33獲得。
まったくこの人は、ここがまだシーズン前半戦のひとつに過ぎないことを、わかっているのだろうか。
重ね重ね記すが、スケーターが最も照準を合わせなければならないのは、3月の世界選手権だ。
NHK杯は長い伝統を誇る試合だが、それでもいくつもある前半戦の1試合。この場で、会心の演技を見せて泣いてしまうなどという話が、あるだろうか?
しかも彼は、やっとNHK杯の出場権を得た選手でも、ジュニアから上がったばかりの新人でもない。現オリンピックチャンピオンが、である。
まったく、コンディション作りの巧みさも、1年の過ごし方の戦略も、あったものではない。
スケートカナダで、「ここは世界選手権か」と見まごうような渾身のフリーを滑ったと思ったら、またも見せてしまった、全身全霊を賭けたショートプログラム。
身体中からみなぎる、1年に一度見せればいいほどの「やりきった感」。滑り切った余韻で興奮を押さえられず、報道陣への応対も早口で、話せど話せど止まらない。
王者の余裕のかけらもない姿には、もう苦笑するしかないだろう。しかしこんなところが、人間・羽生結弦の魅力でもある。
あれだけのアクシンデントや病気、ケガに見舞われた2014-15シーズンも、主な試合すべて、余興に近いともいえる国別対抗戦まで、この男は休まなかった。
「立ち止まってしまったら、もう2度と走り出せなくなるかもしれない」
だから、一試合一試合すべてに全力で立ち向かう。そんながむしゃらさ、あぶなっかしさ、コントロールの効かなさは、ほんとうにチャンピオンらしくない。しかし悔しいことに、そんな姿に人々が惹かれてしまうのも事実だ。
「こんなところで、歴代最高出してどうするの!?」
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