~川崎市の施設の転落死事件から考える~
2016年04月12日
神奈川県川崎市の介護付き有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」で2014年、入居者3人が立て続けに転落死した事件。今年2月、元職員(23歳)が男女2人を殺害したとして逮捕・起訴されたが、ついに最後の入居者への殺害容疑でも先ごろ、再逮捕された。
「老人ホームに入居させるのが怖い」
あまりの衝撃に、要介護の親をかかえる家族からこんな声も聞かれる。介護業界に向けられる目は厳しくなるばかりだ。
介護職の入れ替わりも激しく、神奈川県公表の介護サービス情報によると、昨年8月時点の介護職員数(常勤、非常勤を含む)は41人だが、前年度の退職者数は21人にものぼる。約半数だ。
いったい何があったというのか--。それを紐解く鍵になるのが、施設の親会社である「メッセージ」(岡山市)が昨年12月に公表した、学識者ら第三者による調査委員会報告書だ。他の施設でも虐待が次々に発覚した同社が、原因究明と再発防止策を検討するためにとりまとめたものだが、これを見ると一連の事件が起こるべくして起きたことがわかる。
いずれにせよ異変が続いていたわけだから、リスク管理という点で組織的に何らかの対策がとられるべきだが、施設の運営会社やメッセージの幹部は問題視しなかった。それどころか入居者の転落死は当時の社長(メッセージ)に報告されていたにもかかわらず、対応は地区本部長に委ねるだけだったというから驚きだ。
老人ホームでは入居者が誤ってベランダなどから落下する事故がときどき起きる。ただ、「2件も続いたら普通は『おかしい』と考え、徹底的に事情を調べて対策を講じるはず」と首をかしげる介護関係者は多い。そうすれば3件目は起きなかった可能性があるというのだ。
しかし、報告書によれば、同社では事故や虐待の情報を組織的に吸い上げ、サービス改善につなげる体制ができていなかった。基本的に運営は施設に“任せきり”で、職員が問題を抱え込むことも少なくなかったという。
現場では認知症に伴う入居者の徘徊や暴力などにどう対応すべきか悩むだけでなく、家族からの要求や苦情にも応えなければならない。ノウハウの蓄積があれば解決にも結びつきやすいが、同社では組織的な支援がないため、介護職が上司に相談しても適切な助言が得られないまま放置されることもあったという。それが結果的に虐待や事故につながった要因であるとも指摘されている。
さらに法令順守の姿勢も欠けていた。介護事業者は事故や虐待が発生したら市町村に報告しなければならないが、それさえも徹底されていなかった。直営の275施設への調査では、過去2年間に入居者への暴言や拒絶的な態度など81件の虐待が新たに判明した。メッセージは売り上げで業界第3位を誇る大手だったが、その運営はお粗末としかいいようがない。
急速な事業拡大も現場を疲弊させた。同社は介護付き有料老人ホームにおける「入居一時金撤廃(ゼロ)」の先駆けで、
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