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18歳選挙権時代における高校生の「政治活動」

社会との関わりを持たせ、主権者としての意識を養う機会を

林大介 東洋大学社会学部社会福祉学科助教

 高校生が有権者になるという18歳選挙権時代においては「議会制民主主義など民主主義の意義、政策形成の仕組みや選挙の仕組みなどの政治や選挙の理解に加えて、現実の具体的な事象も取り扱い、生徒が国民投票の投票権や選挙権を有する者として自らの判断で権利を行使することができるよう、具体的かつ実践的な指導を行うことが重要」(注1)となる。有権者となる前の子ども時代から社会課題について考える機会を設け、主権者意識を高めていくことが、今、求められている。

注1:文部科学省初等中等教育局長「高等学校等における政治的教養の教育と高等学校等の生徒による政治的活動等について(通知)」2015年10月29日発出

高校生の政治活動の届出制

 そうした中、愛媛県の県立高校において「校外の政治活動に参加する生徒に、学校への事前の届け出を義務化する」と朝日新聞(2016年3月16日付朝刊1面)が報じた。

林原稿につく写真安保法制に反対してデモ行進をする高校生ら=2月21日、大阪市北区
 厳密に言うと、昨年末、愛媛県教育委員会が特別支援学校、中等教育学校を含むすべての県立高校(全59校)における校則の変更例として、校則に〈高校生の政治活動の届け出〉を明記することを記した資料を配布しただけで、教育委員会担当者は「『校則変更の指示はしておらず、あくまで参考資料』と説明」(同記事)していたとのことである。とはいえ、すべての県立高校が校則を変更したということは、県教委が示した変更例がすべての県立高校において影響力を発揮したということであり、“暗黙の了解”とは言え、拘束力を持つものであったと言えよう。

 また文部科学省は、2016年1月29日に〈「高等学校等における政治的教養の教育と高等学校等の生徒による政治的活動等について」( 初等中等教育局長通知) Q & A( 生徒指導関係者向け)〉と題した文書を発出し、このなかに、以下の問いと答えが記されている。

Q.放課後、休日等に学校の構外で行われる政治的活動等について、届け出制とすることはできますか。
A.放課後、休日等に学校の構外で行われる高等学校等の生徒による政治的活動は、家庭の理解の下、当該生徒が判断し行うものですが、このような活動も、高等学校の教育目的の達成等の観点から必要かつ合理的な範囲内で制約を受けるものと解されます。

 したがって、高校生の政治的活動等に係る指導の在り方については、このような観点からの必要かつ合理的な範囲内の制約となるよう、各学校等において適切に判断することが必要であり、例えば、届け出をした者の個人的な政治的信条の是非を問うようなものにならないようにすることなどの適切な配慮が必要になります。

 このように、直接的には「高校生が政治活動を行う際に届け出をすることを認める」と答えていないものの、「必要かつ合理的な範囲内で制約を受ける」「届け出をした者の個人的な政治的信条の是非を問うようなものにならないようにすることなどの適切な配慮が必要になります」とあることを踏まえると、必要かつ合理的な範囲内において適切な配慮をすれば届け出制を認める、というのが文部科学省の立場である。

憲法に抵触する政治活動の届出制

 そもそも、どのような政治活動に参加するかどうかは、憲法21条(集会、結社及び表現の自由と通信秘密の保護)で保障されている権利であり、憲法19条(思想及び良心の自由)、憲法20条(信教の自由)といった、それこそ憲法が規定している自由権(国家による制約や強制をされずに、自由に物事を考え行動できる権利で基本的人権の一つ)に関わる行為である。こうした自由権を、学校といえども侵して良いはずがない。むしろ、社会のルールをきちんと教え、学ぶのが学校であるべきである。

 愛媛県においては、これまで、「海外旅行」「地域行事への参加、キャンプ・登山等」なども届け出を要する事項となっており、今回はこの事項に「選挙運動や政治的活動への参加」を追加したとのことである。しかも「一週間前に保護者の許可を得てホームルーム担任に届け出る」こととなっている。

 「選挙運動や政治的活動への参加」だけではなく、「海外旅行」「地域行事への参加、キャンプ・登山等」なども事前に届け出ることになっていることは驚きである。子ども会の行事を手伝う、ボランティア活動を行う、地域の祭りに参加する際も、一週間前まで学校に届け出なければ参加してはいけないのが愛媛県である。

 こうした校則は、これまで愛媛県内では問題化しなかったのであろうか。高校生や保護者は、このような校則に素直に従っていたのか。そして現場の教員は、このような届け出についてどのように考えていたのだろうか。

学校が高校生の政治活動を把握することが、政治や社会について考える機会を奪う

 朝日新聞の記事では〈ある県立高校の教頭は「記録に残る文書ではなく口頭での届け出にするなど、生徒を萎縮させない工夫は可能」と話す〉(その後のニュースなどで、県立今治西高校の教頭によるコメントだと思われる)とあるが、「口頭での届け出」というのは、「言った」「聞いてない」の水掛け論になるのは目に見えており、生徒から聞いた側の先生は、結局は記録を残すようになる。そして、「あの生徒は政治活動に○○回参加していた」といった記録が、入試や就職関係の書類に記載されるおそれも出てくる。学校側は「成績には反映させない」「教員を信じろ」との立場を取るのだろうが、はたしてそのような言葉を真に受けることができるのであろうか。

 その結果、届け出制があるために、生徒が選挙の街頭演説会や公開討論会に参加することをためらう生徒も出てくるであろう。今回の愛媛県教育委員会の判断は、18歳選挙権の趣旨を履き違えており、主権者を育てるどころか、子ども世代の政治離れをより加速する方向にしかはたらかない。

地域が高校生と向き合う

 そもそも、放課後や土・日・休日の行動を、学校が把握する必要性は何なのか。学校外の生活については、

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