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奨学金問題の現状と課題―16年参院選へ向けて―

給付中心の奨学金制度への移行を目指すべきだ  

大内裕和 中京大学国際教養学部教授

 授業料の値上げなど学費負担の増加と経済状況の悪化によって、奨学金を利用する大学生が増加しています。日本の大学生の半分以上が、何らかの奨学金を利用しています。

 大学生の奨学金利用の約8割を占めているのが、日本学生支援機構の奨学金です。日本学生支援機構の奨学金は貸与のみで、しかもその半数以上が有利子である第二種奨学金となっています。有利子である第二種奨学金は、大学卒業後に借りた奨学金以上の額を返さなければなりません。

若年層の雇用状況が悪化、返済が困難に

奨学金ガイダンス奨学金のガイダンスで配布資料を読む学生たち=名古屋市千種区の名古屋大
 しかし、大学卒業後の若年層の雇用状況は悪化しています。大学を卒業しても職に付けなかったり、非正規雇用となることは珍しくありません。また、正規であってもボーナスがなかったり、年功序列型賃金がないなど「名ばかり正規」「義務だけ正規」と呼ばれる周辺的正規労働者が増えています。所得がなかったり、低賃金であれば、奨学金を返すことは困難です。実際、日本学生支援機構の調査でも、延滞者の約8割が年収300万円以下であることが明らかになっています。「返したくても返せない」人がたくさんいる、というのが現実です。

 奨学金の延滞が3カ月になると、延滞情報が個人信用情報機関のいわゆるブラックリストに登録されます。ブラックリストへの登録は、2010年度の4469件から2014年度の1万7279件に増加しています。延滞9カ月になると、多くの場合、支払督促という裁判所を利用した手続が行われます。その件数は、2006年度の1181件から、2014年度には8495件と飛躍的に増加しています。

 貸与のみで有利子中心の日本学生支援機構の奨学金は、大学卒業後の雇用状況の悪化によって、若者の多くに重くのしかかかる「借金」となってしまっていると言えるでしょう。

極めて問題が多い議論中の「所得連動型奨学金制度」

 これに対して現在、所得に応じて返済額を決める「所得連動返還型奨学金制度」の2017年度からの導入を目指して、有識者会議での議論が進んでいます。しかし、その内容は諸外国の所得連動型奨学金制度とは、かけはなれています。予算が限られているなどの理由で、収入がゼロの人も含めて非課税の人に対しても毎月2000円ずつ支払いを求めています。また最長の返済期間または年齢を定めて、その余の返済を免除する制度が設けられていません。極めて問題が多く、所得連動型奨学金としては不十分な内容となっています。

二つの団体が奨学金制度の問題点を世論に訴える活動

 2012年9月1日に有利子奨学金の無利子化と給付型奨学金の導入を目指して、「愛知県 学費と奨学金を考える会」という学生団体が結成されました。2013年3月31日には、返済困難者の救済と奨学金制度の改善を目指して、法律の専門家や教育関係者などを中心とする市民団体「奨学金問題対策全国会議」が結成されました。両団体は、奨学金制度の問題点を広く世論に訴える活動を行いました。

 2015年秋以降には、労働者福祉中央協議会(中央労福協)が「給付型奨学金制度の導入・拡充と教育費負担の軽減を求める署名」を開始しました。2016年4月27日現在、303万287人の署名が集まっています。300万を超える署名は政府にも大きな影響を与えました。2016年3月後半以降の安倍政権の給付型奨学金制度導入へ向けての動きは、こうした運動と世論の高まりに、一定程度応えたものと言えるでしょう。

 しかし、安倍政権による給付型奨学金制度の内容は、いまだに不透明です。2016年3月29日の記者会見で安倍首相は給付型奨学金の創設について言及し、

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