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[3]「トランプVSヒラリー」があぶり出すもの

有権者にこれほど「嫌われている」両候補が大統領選を戦ったことはかつてない

真鍋弘樹 朝日新聞編集委員

「国家統合の象徴」「国民の自画像」のはずだった……

 ドナルド・トランプ氏が共和党の大統領候補の座を手にした。日本でも報じられている通り、5月3日のインディアナ州予備選で、大敗したクルーズ上院議員とケーシック・オハイオ州知事が共にあっさりと撤退を表明したためだ。

支持者らを前に演説するトランプ氏拡大支持者らを前に演説するトランプ氏

 こう書きながら、筆者にはまだ現実感がない。

 アメリカ合衆国の大統領は、国民にとって特別な存在だ。国家元首であり、軍の最高司令官でもある。今でも国民的人気を誇るJ・F・ケネディー、ロナルド・レーガン両大統領が典型だが、米市民にとっては国家統合の象徴であり、それぞれの時代の国民の自画像としてふさわしい人物が選ばれやすい。

 「(不法移民を食い止めるために)メキシコ国境に壁を作り、その費用はメキシコに払わせる」「イスラム教徒を入国禁止にする」などの人種偏見をむき出しにし、テレビキャスターに対し「彼女からは血が出ていた」などと生理を連想させるような女性蔑視発言をやってのけ、「日本や韓国に核兵器の所有を認める」といった戦後の世界秩序を無視する放言をし……。そんな人物を、共和党の有権者は二大政党の大統領候補として担ぎ出した。アメリカよ、本当にそれでいいのか、と問いただしたくなる展開だ。

「あなたは信じられるか?」と一面に見出しをつけたニューヨークポスト拡大「あなたは信じられるか?」と一面に見出しをつけたニューヨークポスト

 頰をつねりたくなる思いなのは多くの米国人も同様のようで、タブロイド紙のニューヨークポストはインディアナ州予備選の翌日、「あなたは信じられるか?」と一面に見出しをつけ、トランプ氏の顔写真の下に「指名候補」と大書した。

 この連載の1回目では、トランプ氏のようなアウトサイダーが人気を集める理由として、以下のように書いた。

 「エスタブリッシュメント(主流派)、つまり政治エリート支配への「ノー」だ」

 「地下水脈からしみ出る小さなわき水が集まり、いつの間にか滔々(とうとう)たる川になりつつある」

https://webronza.asahi.com/national/articles/2016022200005.html

 この既成政治家への反発は、今や大河となった。

 昨年の出馬表明以来、トランプ氏を泡沫候補扱いし、一時のブームだと考えていたワシントンの政治家たちや評論家、私を含めたジャーナリストはみな、この巨大なエネルギーを過小評価していたということになる。

アメリカ社会のいくつもの分断をあぶり出す

クリントン氏の支持者らが掲げた「マダム大統領」のプラカード拡大クリントン氏の支持者らが掲げた「マダム大統領」のプラカード

 さて、公職経験も軍隊経験も無いビリオネアの不動産王を迎え撃つのは、前国務長官にして元大統領夫人、ヒラリー・クリントン上院議員である。5月上旬現在、民主党側ではバーニー・サンダース上院議員が予備選を継続しており、厳密にはまだ決着はついていないが、獲得代議員数の差からクリントン氏の勝利は確実視されている。

 トランプvsヒラリー・クリントン。この争いはかつてなく、いくつもの輻輳(ふくそう)したアメリカ社会の分断をあぶり出すものになる、と筆者は考えている。

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筆者

真鍋弘樹

真鍋弘樹(まなべ・ひろき) 朝日新聞編集委員

1965年生まれ。一橋大学社会学部卒。朝日新聞入社後は社会部、那覇支局、ニューヨーク特派員、論説委員などを経てニューヨーク支局長。過去に「ロストジェネレーション」、「愛国を歩く」などの連載企画を手がけたほか、オバマ大統領が当選した2008年の米大統領選を担当した。著書に「3・11から考える家族」(岩波書店)、「花を 若年性アルツハイマー病と生きる夫婦の記録」(朝日新聞)、共著に「孤族の国 ひとりがつながる時代へ」(同)、「ロストジェネレーション さまよう2000万人」(同)などがある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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