メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

デジタル教科書がもたらすこれからの授業

授業は、教師が主役である「教育」から、生徒が主役である「学習」の場に

田村恭久 上智大学理工学部教授

 文部科学省は、昨年4月から「『デジタル教科書』の位置付けに関する検討会議」を計7回開催してきました。このなかで、デジタル化した教科書を生徒用パソコン上で表示しながら学習する仕組みを2020年度に導入することを目指しています。この目標は、同省が2011年に公表した「教育の情報化ビジョン」に示された工程表と同じです。

 また、この検討会議と並行し、文部科学省と総務省が連携して「先導的な教育体制実証事業 」「先導的教育システム実証事業」を進めています。これらは全国の十数校を対象にデジタル教科書・関連機器・ネットワークを導入し、先導的な教育体制を構築するための実証研究です。

田村原稿につく写真拡大電子黒板(左奥)に映し出されたのと同じ内容を紙の教科書で読む児童たち=東京都荒川区の尾久小学校
 筆者自身は、ここ5年ほど様々な学会やセミナーで教育の情報化やデジタル教科書のメリットや必要性を説明してきました。しかし、現役の教師が全員、教育の情報化に賛成しているわけではありません。また保護者の方々からも不安を訴える声があるのも事実です。

 上記の検討会議でも、「中間まとめに向けた論点の整理について」を公表し、健康への影響、紙媒体との併用、検定制度など、導入の是非を議論するための論点をまとめています。

 また、情報処理学会ほか7学会が「『デジタル教科書』推進に際してのチェックリストの提案と要望」を公表し、特に理数系教育の情報化に際して留意すべき9項目を挙げています。これらの指摘は、デジタル教科書を編集し、また授業で使っていく中で考慮すべき事柄です。

世界各国で進む教育の情報化

 教育の情報化は、世界各国の学校において着実に進んでいます。韓国は国が主導し、教科書や教材のデジタル化、学校のネットワーク環境の整備、生徒用機器の導入を推進し、昨年には全国の小中高でデジタル教科書の使用を開始しています。

 このほか、中国(北京や上海)、台湾、シンガポール、タイ、マレーシア、オーストラリアなどで導入が始まっています。欧州ではイギリス、フィンランド、スウェーデン、デンマーク、フランスなどで、またアメリカやカナダでも導入事例があります。

 教育の情報化のあり方は、国によって多少異なっています。アジア諸国では、従来の紙媒体の教科書をデジタル化し、そこに音声や動画などのマルチメディアを追加するケースを多く見かけます。これは、日本における教科書検定と同様の制度を継続するためです。

 マルチメディアにより、学習内容がより深く理解できる場合もありますが、「とにかくメディア化すればよい」というわけではありません。試験的に作られたデジタル教科書では動画を大量に含めたため、1冊でブルーレイディスク (50GB) より大きなサイズになったものもあります。内容理解のポイントを押さえ、メディア化の是非を検討する必要があります。

スキル獲得型の授業を目指す欧州

 一方、欧州では教科書をデジタル化するだけでなく、調べ学習・議論・知識の整理など、さまざまな学習活動を促すネット上の教材や学習支援環境を追加して授業を構成するケースが多くあります。この要因として、まず教科書の検定やカリキュラム記述が厳密ではなく、

・・・ログインして読む
(残り:約1780文字/本文:約3075文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

田村恭久

田村恭久(たむら・やすひさ) 上智大学理工学部教授

1987年上智大学大学院博士前期課程修了。同年日立製作所システム開発研究所。1993年上智大学助手。1996年博士(工学)。専門分野は教育工学。研究テーマはeラーニング、電子教科書、学習行動分析(ラーニングアナリティクス)、協調学習支援、スキル学習支援など。ISO/IEC JTC1/SC36 (Learning Technology) WG8 (Learning Analytics) project co-editor、ICT Connect 21 技術標準化WG座長、学習分析学会理事長、日本eラーニング学会副会長、JEPAフェロー。