デジタル教科書による学習は健康面に十分配慮を
2016年05月27日
文部科学省の「学習者用デジタル教科書」の在り方を検討する有識者会議「デジタル教科書の位置付けに関する検討会議」は2016年4月22日に中間まとめに向けた検討結果を提示した。内容は、紙との併用が適当、無償化は難しい、検定はできないなどであり、次期学習指導要領(小学校は2020年度)までにデジタル教科書の導入が可能な環境整備をする必要があるとの意見を提示した。
本稿では、日本小児連絡協議会の提言を中心にICT(Information and Communication Technology)と子どもの健康について概説する。
ICT端末を使う健康障害は、①長時間続けて使うことによる健康障害、②コンテンツ(内容)による健康影響、③情報伝達手段としての健康影響に大別される。
長時間継続使用はVDT(Visual Display Terminal)症候群の要因である。VDTはコンピュータのディスプレイなどの画面表示端末(Visual Display Terminal(VDT))を使用した作業を長時間続けることにより、眼精疲労やドライアイ、視力低下などの眼の症状、肩こり、首から肩、腕の痛み、頭痛などの体の症状、イライラ感、不安感、抑うつ症状などの心の症状などの様々な症状をきたす病気である。
2002年に厚生労働省は新しい「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」を出している。VDTは小児でも診断されており、労働衛生管理だけでなく、ディスプレイを使うゲームやスマホなどを長時間行う子どもたちも罹患する疾患である。
また、近年、視細胞に色を識別する錐体細胞と明るさを認知する桿体細胞に加えて、光感受性網膜神経節細胞の存在が明らかになり、この細胞は概日リズム(サーカディアン・リズム:睡眠周期やホルモン分泌などの生理現象は約24時間周期で変動しており、体内時計と表現することもある)に関連し、ブルーライトが睡眠障害の原因となることが指摘されている。
長時間のICT使用は睡眠、運動等の生活時間が不足する健康障害を引き起こすという研究報告は枚挙に暇がない。これらの研究では、スマホなどの使用が長い児童生徒ほど、睡眠時刻が遅く、運動時間が短く、朝食欠食や不登校、親や友人など他者と関わる時間が不足していることを指摘している。長時間ICT使用によるネット依存症は新しい疾患概念であり、後述する。
コンテンツによる健康影響はバーチャル世界とリアル世界の混乱を起こすることによる健康問題と有害サイトによる行動、メンタルへの影響が指摘されている。
情報手段としての健康影響については、ICT利用がコミュニケーション能力や社会性の発達に影響するという脳科学研究での報告が散見される。
ネット依存症は海外ではInternet addiction, Internet addiction disorder, problematic Internet use, Internet abuse, digital media compulsionなどと記載されているが、医療における診断基準は確立していない。現状では、精神障害の診断と統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、DSM)の第5版に暫定診断基準としてインターネットゲーム障害が記載されているのみである。
ネット依存の現状や健康との関連の調査研究は、Kemberly Young博士が開発したインターネット依存度テスト(IAT:久里浜医療センターで翻訳)を用いて行われているものが多い。IATは20項目の質問からなり、回答の選択肢は全くない(1点)から、いつもある(5点)の5段階で、得点が高いほど依存度が高いというものである。
ネット依存に関する研究では次の様な報告がある。ネット依存の児童生徒は睡眠障害がほぼ必発となり、遅刻、欠席、成績低下など学業に影響することに加えて、気分調整ができなかったり、何でも話せる友人がいなかったり、
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください