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法科大学院制度は、廃止を決断すべきとき

当初から破綻原因を内包しており、改善は不可能だ

猪野亨 弁護士

 法科大学院の実入学者数は、2006年に5,784人と最高値となってからは減少の一途であり、2016年では1,857人にまで減少した。昨年の司法試験合格者数が1,850人であり、ほぼ同数である。

 予備試験の受験者数は若干の増加はあるものの、全体の法曹志願者離れに歯止めが掛からない状態である。

猪野原稿につく写真「法科大学院がわかる会」に参加した学生ら=東京都港区
 現在、法科大学院志望者が減少し続けているのは、学生にとって法科大学院に入学するメリットが全くなく、最初から法科大学院入学は選択肢にはなっていないからである。

 法科大学院は専門職大学院として、その課程を経ることによって専門職になるわけだから、そこを卒業すれば将来、相応の処遇が見通せる職種につけるものでなければ、最初から専門職大学院としては制度として破綻していることを意味する。

司法試験の合格率は25%程度

 現状、法科大学院課程を修了しても25%程度しか司法試験に合格することができず、司法試験に合格できたとしても弁護士としての就職が絶望的な状況は既に広くマスコミを通じて周知の事実となった。高額な学費、2~3年は法科大学院に拘束され(その間の生活費も別途必要)、司法試験に合格した後も給費制の廃止された司法修習に1年費やさなければならない。それにもかからず安定した収入が見込めないということになれば、多くの学生が敬遠するのは当然の結末であった。

両立し得ない2つの層の養成が法科大学院創設の目的だった

 もともと法科大学院は、2つの目的の下で創設された。1つは経済のグローバル化の流れの中で企業にとって外国企業と対等に渡り合えるための即戦力としての法曹の養成であった。さらには構造改革路線を遂行するにあたって規制緩和を実現するための司法の役割を強化すること、それを支えるための大量の法曹の養成であり、それは従来の在野法曹としての位置付けを否定し、構造改革に見合ったビジネス資格に転換させることであった。

 もう1つは、司法試験合格者数を大増員するにあたって受験者層の能力の底上げである。単純に司法試験合格者数だけを増加させれば質が下がることは自明であった。そのため受験者層の抜本的な質を確保しなければならず、グローバル化を支える法曹の人材養成と大量合格による質の低下に対する抜本的な底上げの役割を法科大学院が担うこととなった。

 しかし、元々、この2つの要請はトップクラスの養成と底辺の底上げのための養成であるから、そもそも両立し得ない2つの層の養成という矛盾を抱えていた。

志望者の大幅減の要因は、弁護士の就職難

 現実には法科大学院は質の維持すらも困難な状況に陥った。その原因は、法科大学院志望者の大激減である。その要因は既に述べた弁護士の就職難である。その根底には法曹需要の見込みの誤りがある。グローバル化の流れの中で企業が法曹を必要とするはずだということで司法試験合格者数の大増員が図られたが企業でもさしたる需要もなく、その結果、弁護士の供給過剰となったが、これが志望者の激減を招いた。

 法科大学院志望者の大激減は「法科大学院の全入」とも揶揄される状況を招き、入り口段階から質の低下が顕著になった。こうなると最先端の分野の修得などという理念は絵に描いた餅である。

 志望者激減がさらなる質の維持を困難にするという悪循環に陥った。

大増員が必要なほどの法曹需要はなかった

 法曹養成制度に関する改革は完全に失敗した。まずはこの失敗を認めることから出発しなければならない。その出発点は増員しなければならないほどの法曹需要はなかったということである。しかし、法科大学院制度を擁護する勢力は、

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