日米関係の深化に大きな1ページ切り開く
2016年06月02日
5月27日のアメリカのバラク・オバマ大統領の広島訪問は、日米関係の新しい1ページを切り開いた。犠牲者に深い追悼の意を表した「広島演説」は、「核なき世界」という理想を掲げた2009年4月の「プラハ演説」とともに、核軍縮や核不拡散についての政策を今後、語る際に必ず言及されるであろう。その意味で、日米の二国間関係だけでなく、国際政治史に残る大きな出来事となったといっても過言ではない。
予定外の原爆資料館の訪問から始まり、オバマ大統領の歴史を踏まえた知性ある演説までの重厚な緊張感。それに続く、坪井直さんとの何度も繰り返された固い握手、さらには、森重昭さんを抱きしめるオバマ大統領の姿を見て、被爆者の方々の深く重い歴史を考えて、思わず涙腺がゆるくなったのは筆者だけではないだろう。
オバマ大統領が去った後、メディアに囲まれた坪井さんと森さんは終始笑顔を絶やさなかった。お二人の素敵な表情を見て、私自身も胸のつかえがおりたような気がした。一種の安堵で、再び涙腺がゆるくなってしまった。
唯一の被爆国としての日本としては、長年の痛みをアメリカ、そして世界に少しでも共有できる絶好の機会になった。関係の深化という意味で、日米関係の大きな1ページを切り開いたといえる。「敵国」から、安全保障上でも「パートナー」に変わった日米同盟をPRしたいのは日本側だけでなく、アメリカ側も同じ思いであろう。
キー局のほとんどが生中継した日本ほどではないが、アメリカでも24時間ニュースチャンネルが生中継したほか、いまだにアメリカ国民の注目度では非常に高い3大ネットワークのイブニングニュースのいずれも、オバマ大統領の広島訪問に時間を割いている。
災害などを除けば、日本がイブニングニュースに取り上げられることは非常に少ない。例えば、昨年の安倍首相の訪米の際の議会演説はほとんど取り上げられなかった。アメリカのメディアにとっては、大統領という自分たちのリーダーの外遊であるため、質的には異なるのかもしれないが、対照的ではある。
広島訪問の報道を見たアメリカ国民も冷静だった。筆者の知人のアメリカの複数の政策関係者に聞く限り、オバマ大統領を「謝罪外交」という批判する声も極めて少数だったという。
オバマ大統領の広島訪問のテレビ中継で何度も涙するような政治学者のセンチメンタルな感情とは裏腹に、「核なき世界」という理想を掲げた2009年4月の「プラハ演説」後のオバマ政権の7年強は、国益がぶつかる国際政治の冷徹な現実の中、核軍縮、核不拡散政策が停滞した日々でもあった。
オバマ政権としては、「核なき世界」に向かっての努力はしていないわけではない。2010年4月から、核物質であるプルトニウムやウランなどの管理などを厳格化する国際会議「核セキュリティサミット」を開始したほか、2011年2月には核軍縮の最大の相手であるロシアとの核軍縮条約である新START(戦略兵器削減条約)を発効させている。
ただ、その後、欧州ミサイル防衛(MD)計画をめぐる意見の相違や、さらにはウクライナ問題などもあり、米露間の関係が悪化し、一種の「米露新冷戦」といわれるような対立の時代が訪れている。
この対立の中、ロシアが新型爆弾の開発を進めており、これに対抗するためにオバマ政権は次世代核兵器システムの開発に舵を切っている。次世代核兵器システムとは、はっきりいえば「より使いやすい核兵器」であり、
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