2016年06月03日
この全仏オープンのタイミングで筆者が錦織について記したのは2年前、そのとき錦織は初めてトップ10入りを果たし、マイケル・チャンコーチの成果が出始めているという流れだった(2014年5月21日「トップ10錦織にチャンがもたらすチャンスの姿」)。のち、日本人は日々の報道にむやみに一喜一憂しつつ、錦織本人は常に前進への模索と安定した成績を続け、世界のベスト8をずっとキープしている。先般のローマでの試合では音だけで覚えた日本語で応援の声をかけるイタリア人の姿もよく聞き取ることができた。もはや錦織は日本人の代表でも日本の財産でもない、グローバル社会の宝として、年間の40週間以上を世界で転戦している。
2016年前半の錦織は、2014年全米オープン準優勝からの余勢をかっていた2015年前半よりもさらによい実績を残している。具体的には、四大大会に次ぐ規模の「マスターズ1000シリーズ」であるインディアンウェルズ(ベスト8)、マイアミ(準優勝)、マドリッド(ベスト4)、ローマ(ベスト4)の各大会はすべて昨年と同じかそれ以上勝ち上がっており、これらを含む欧州南部でのクレーコート3大会(バルセロナ、マドリッド、ローマ)については、「クレーコートの得意な選手」として確固たる実績を収めたと言える。
赤レンガを粉にして突き固めたグローバルスタンダードの「レッドクレーコート」(粘土ベースの日本のクレーコートはまったく異質なもの)はバウンドしたボールの推進力が失われ、また順回転のボールが高く跳ねることから、筋力と持久力と忍耐力が優位のカギとなる。欧州や南米出身の「クレーコートスペシャリスト」も多く、体格の華奢な錦織は長らく苦戦を強いられてきた。錦織はこれまで強化してきた体力・筋力でこのクレーコートを戦い抜くパワーを身につけ、全仏オープン前には苦手だったガスケとブノア・ペア相手の勝利(ガスケにはマドリッドとローマで連続勝利)として結果を出した。
加えて今期は、時に攻撃の手を止めて緩い球(弾道を上げる、角度をつける)を織り交ぜ、相手のペースを壊すことによってランキング下位のあらゆる選手を退けてきた。この点錦織も「男としてはつらい判断だが」「打ち合いをあきらめて」「高さ、角度をつけた」(全仏オープン2回戦後の記者会見にて)と述べており、コーチ陣と練った作戦の成果となっている。それは本来錦織が得意としてきた「たくさんの引き出しを次々に開ける」ことの一環であり、例えば2年前よりは明らかに一回り強い錦織として、本来の錦織のテニスに戻ってきた感がある。
そして日本人が近日やきもきしている「何とかビッチとかいう
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