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[1]3年前の司法研修所の研究会で示される

入手した記録が物語る「国のエネルギー政策に司法は口をはさむべきではない」

瀬木比呂志 明治大法科大学院教授

大飯原発運転差し止めを命じる判決を伝える原告団の弁護士ら=2014年5月21日、福井市の福井地裁前拡大大飯原発運転差し止めを命じる判決を伝える原告団の弁護士ら=2014年5月21日、福井市の福井地裁前
  最高裁判所事務総局が陰に陽に裁判コントロールを行ってきた事件類型の中で現在最も注目すべきものは、原発訴訟と名誉毀損損害賠償請求訴訟である(拙著『ニッポンの裁判』第4章。以下、この文章では、「ニッポン」として引用する)。

  名誉毀損訴訟については、裁判官たちの原告(政治家等の権力者、大企業等の巨大組織、タレント等が多数を占める)寄りの姿勢が顕著であり、スラップ訴訟(被告に対する恫喝や精神的圧迫を主な目的とする訴訟)に該当しあるいはその傾向が強い事案も増えていて、表現の自由や国民の知る権利の観点からきわめて憂慮すべき状況にある。しかし、それについては別の機会にふれることとし、この文章では、原発訴訟について論じたい。

  まず、原発訴訟をめぐる状況に関する「ニッポン」の記述を補足しておこう。

  私は、「ニッポン」において、福島第一原発事故後の2012年1月に司法研修所で全国の地裁裁判官35名を集めて行われた研究会で、原発事故を防げなかった裁判所、また原発訴訟に関する過去の最高裁判決に対して強い批判があったことから、裁判所当局が、原発訴訟について暫定的な方針転換を行い、裁判官たちの手綱を多少ゆるめる方向を示唆した可能性が高いと記した。

  また、同時に、この研究会の開催意図やそこで示された裁判所当局の意向(研究会の中核発言者であるエリート層の裁判官を通じて示唆されたと思われるそれ)は、かつて事務総局が開催していた各種の裁判官協議会や名誉毀損損害賠償請求訴訟について司法研修所で行われた研究会(「ニッポン」128頁以下)の場合のように明瞭ではなく、政治と世論の雲行きを見ながら、原発容認の空気が強くなれば路線を元に戻す可能性は十分にあるとも記しておいた。

  まさにそのような方針の再転換が行われたことを示すのが、私が「ニッポン」執筆後に入手した司法研修所における2013年2月の再度(約1年後)の研究会の記録である。この研究会の特徴は、1回目のそれとは異なり、5名の講師たち(法科大学院教授2名、弁護士1名、法務省審議官1名、新聞社論説副委員長1名。なお、法務省審議官を除き氏名は黒塗りで抹消されている)が招かれていることと、こうした講師らの発言の量が研究員である裁判官たちのそれより圧倒的に多いことだ。

  そして、全体の論調は、簡潔にまとめれば、次のようなものである。

  ①原発の運営は高度な政治的問題だが判断のあり方によっては政策の混乱を招くおそれがある、②原発訴訟の判断に当たっては最高裁判例が示した枠組みに ・・・ログインして読む
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筆者

瀬木比呂志

瀬木比呂志(せぎ・ひろし) 明治大法科大学院教授

1954年名古屋市生まれ。東京大学法学部在学中に司法試験に合格。裁判官として東京地裁、最高裁などに勤務、アメリカ留学。並行して研究、執筆や学会報告を行う。2012年から現職。専攻は民事訴訟法。著書に『絶望の裁判所』『リベラルアーツの学び方』『民事訴訟の本質と諸相』など多数。15年、著書『ニッポンの裁判』で第2回城山三郎賞を受賞。

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