人間の行動を決定するのは「意識」ではなく「脳」
2016年07月25日
ところで、脳神経科学の最近の研究成果は、おそらく、責任主義の前提そのものに対して、大きな疑問を呈するものである。といっても、これは、「刑法39条はおかしくないか?」といった考え方とは逆の方向からの批判だ。つまり、「そもそも、責任主義の前提である自由意志論自体が虚構にすぎないのではないか?」という批判である。
こうした主張を直截に展開しているのが、脳神経科学者デイヴィッド・イーグルマンの『意識は傍観者である――脳の知られざる営み』〔早川書房〕である。
イーグルマンは、これまでの脳神経科学の成果を引きながら、人間の行動の多くは意識のアクセスできないレヴェルで決定されており、意識は調整者的な役割しか果たしていないこと、脳のあらゆる部分はほかの部分とつながったネットワークであり「すべてに先立つ自由意志」は幻想にすぎないこと、人間の行動に影響を及ぼす遺伝的・環境的要因、あるいは脳の器質的要因、つまり、個々の脳の物理的特性が個人によってはおよそ左右できないものであることなどを明らかにし、自由意志と責任主義に基づく刑事法学と裁判のシステムを批判する。つまり、「自由意志が幻想である以上、責任主義もその根拠を失う」というわけだ。
一見非常に先鋭な主張のようにみえるが、実をいえば、近年の脳神経科学の知見からすれば、こうした主張が出てくることは、不思議ではない。
1980年代に行われた有名な「ベンジャミン・リベットの実験」は、人間がある行為を行おう(たとえば、指を動かそう)と決意する0.5秒近く前に脳波にはそれに対応した電位変化が現れることを示した。
要するに、①人間の「自由意志」とは、進化の過程で作られたある意味での「虚構」であり、人間の行動を決定しているのは、その「脳」そのものである、②それより
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