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「自動運転車社会」の啓発と社会運動が今こそ必要

米国で起きた死亡事故が問う道路交通の社会常識の変容

倉沢鉄也 日鉄総研研究主幹

 自動運転車の死亡事故が日本の主要報道機関で大きく採り上げられたのはおそらく初めてだろう。去る5月に米国フロリダ州で起きた交通事故は、運転補助目的のオートパイロット機能がついた直進の自動車が、日本で言う「右直事故」(右折車と直進車の事故)の形でトレーラーの側面に衝突し、自動車が下敷きになって運転手死亡、というものだった。6月末に至り米国政府「道路交通安全局」がこの事故を詳細に調査すると発表したことがきっかけになって、日本にも広く知られるに至った。

  開発中の各社が公道走行実験で積み上げてきた実績の中で死亡事故はゼロではない。今回の事故は「前方を注視し、ハンドルに手をかけていなければならない」という交通法規の状況下で、運転手がDVD映像に興じていた、という人災の側面もある模様だ。当の自動車メーカー・テスラモーターズは、強い太陽光とトレーラーの色がセンサーを狂わせたのではないか、と説明している。政府当局は調査を積み上げるまで慎重に言動をとる、としている(以上内外各種報道より)。

  自動運転車は、自動車とカメラ・センサー・ソフトウェアの技術だけでは何十年たっても絶対に実現しない。拙稿「“全自動車”はGoogle Carのように簡単ではない」(2013年9月13日)で以下の論点;◆路側電波ITとの協調◆所有・管理概念の整理◆様々な走行環境への対応◆道路上を動く対象の様々な能力と責任◆自動車メーカーのIT‘消化力’◆IT商品と異なる消費者マーケティング◆運転行為の法的責任と社会常識◆技術・法制度・常識の国際標準化(以上は要約したため抜粋ではない)を列挙したとおり、道路交通社会と自動車産業を長年構成してきた多数の要素をクリアしないと自動運転車は実現しない。

  テスラモーターズも含めた世界中の当事者(ビジネス、政策に携わる者)は皆、時間をかけて慎重にこの問題を解決しようと取り組んでいる。2016年現在の技術と法体系と社会常識で自動車が確実に実現できることは「運転手の安全運転支援」でしかない。つまり時間をかけて道路交通社会自体が変わることが、‘夢の自動運転車’の必要条件だ。

  この問題を混乱させているのは、報道も含めた「当事者以外の、素人」の無邪気な反応だ。IT技術の進歩で

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