政治的中立が求められる日本と対照的に、無責任だが自由で面白い米国の政治報道
2016年08月04日
アンダーソン・クーパー(CNN)「それ、5歳児の議論じゃないか」
トランプ氏「そんなことないね。これこそこの国の問題なんだ」
アンダーソン・クーパー(CNN)「親なら誰でも知ってますよ。むこうから始めた、って言い訳するのは子供だって」
トランプ氏「それは5歳児ではないよ」
(ライバルだったクルーズ氏への挑発的ツイートの説明を求められ、スケール大きく国の問題と説明したか思うと、スケール小さく年齢のちがいに置き換えるトランプ氏[http://cnnpressroom.blogs.cnn.com/2016/03/29/full-rush-transcript-donald-trump-cnn-milwaukee-republican-presidential-town-hall/])
クリス・マシューズ(MSNBC)「彼女は今回のことで仕事を辞めたんですよ。取材に信念があったにちがいない」
トランプ氏「彼女は辞めたの?首になったの?」
クリス・マシューズ(MSNBC)「ええと、確か、辞めたんです。もっと大きな話をしましょう…」
トランプ氏(さえぎって)「法廷で明らかになるよね。でももっと簡単に私なら、You fired!(リアリティショーの決め台詞、お前はクビだ)」
(トランプ陣営の選挙運動本部長が女性記者に暴行した疑いについて、むしろ女性を決め台詞で非難するトランプ氏[http://info.msnbc.com/_news/2016/03/30/35330907-full-transcript-msnbc-town-hall-with-donald-trump-moderated-by-chris-matthews?lite])
記者がトランプ氏に切り込み、辛酸を嘗める例は挙げればきりがありません。質問にはトランプ氏の言動を咎め、諭そうという意図が見え隠れします。しかし場当たり的なトランプ氏の対応に目くじらをたてることは、トランプ氏が演出するリアリティショーの一員に飲み込まれることになり、インタビューは完全にトランプ氏のペースになるのでした。
トランプ氏はよく「エリート達が十分賢いというなら、私が共和党候補に指名された現実をどう説明する?」と問いかけます。すべての予備選を終え、トランプ氏はこれまでの誰より多い得票数で指名を勝ち取りました。見識ある人なら議論にならないのはトランプ氏の受け答えに問題があると考えそうなものですが、共和党支持者の大半がトランプ氏こそ信頼できると判断したのは何故なのでしょうか。
ABCニュースでオハイオ州の共和党議員が「いろんな人がいて、いろんな考えがあって、それがぶつかりあう。もともとアメリカはリアリティショー的な国なんだよ」と話すのを聞いて私はハッとしました。これまで別次元だと思っていた、リアル(現実)とリアリティーショーですが、もともとリアリティーショーは現実の一部として内包されたものなのだと言われた気がしたからです。
「これが現実だ…」と、リアルには無条件降伏が求められ、むしろ不自然な制限や諦めが伴うものです。ことアメリカは多種多様な人々、思想が存在するため、それをまとめるためにも、リアル、言い換えるなら、現実路線、常識や規律のようなものが不可欠です。しかしトランプ氏の出現でリアルに堂々と疑問を持つことが許されると、人々の意識にコペルニクス的転回を引き起こします。
リアリティショーに投影されていた、それまで自制していた感情や欲望はリアルな世界に息を吹き返し、これまでリアルだと提示されていたものを、フェイクなリアリティショーに見せるのです。それに対し、上段に構えて「リアルでない」と否定することで、メディアはリアルを押し付ける権威的なエスタブリッシュメントの一部となり、トランプ氏にさらなる力を与えてきたのかもしれません。
党大会を終え、米国メディアの報道はさらなる変化を見せています。最近はトランプ氏に真摯に向き合うインタビューが多くなり、トランプ氏の扱い方をメディアも心得てきたようにみえます。
放送法の下に政治的中立が求められ、近年その解釈がより厳格になっていると指摘される日本の状況とは対照的に、
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