杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ) ノンフィクションライター
1970年生まれ。日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)卒業後、会社員や派遣社員などを経て、メタローグ社主催の「書評道場」に投稿していた文章が編集者の目にとまり、2005年から執筆活動を開始。『AERA』『婦人公論』『VOICE』『文藝春秋』などの総合誌でルポルタージュ記事を書き、『腐女子化する世界』『女子校力』『ママの世界はいつも戦争』など単著は現在12冊。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
マスコミと理研に叩かれた小保方氏を擁護したのは中年層か
安保法案への抗議運動で注目された学生団体SEALDsが、8月15日に解散すると発表した。国会議事堂前や渋谷などでの彼らのデモ活動は注目され、メディアでも大きく取り上げられた。しかし、一方で、強い反発があったことも事実だ。ネットだけではなく、批判本も複数発売されている。そのアンチSEALDsの中心は、ネット保守と言われる人たちであろう。彼らの言動を見ていると、安保法案を通したいので、抵抗勢力であるSEALDsを批判していたと、一概には言えないことが分かってくる。
彼らが真に反発しているのは、ラップ調で「安倍は辞めろ」と謳っている学生たちではなく、彼らをもてはやす”大人”なのだ。こう書くと、「それがどうした。そんなのみな分かっている!」と、それこそネット保守のみなさんに突っ込まれそうだ。しかし、ネットをあまり見ない私は、彼らの”敵”を今回、把握し、ようやく、この2年ほど抱えていた「なぜ、ネット保守は小保方晴子を擁護するのか」という謎が解けたのだ。
ネット保守に関する考察で知られる評論家の古谷経衡氏は、2014年4月16日に『ネット保守からの「小保方擁護論」とは?』(Yahoo!JAPANニュース・個人)という記事を配信していた。古谷氏の記事によると、ネット保守はアンチマスコミであり、彼らの中には、「既成の大手マスメディアが叩く=その対象者は善」という図式が存在しているとのことだ。そのため、マスコミからバッシングされた小保方晴子氏を擁護しているというわけである。
しかし、マスコミが叩く人間を擁護するなら、なぜ、タレントのベッキーを擁護する声を上げないのか。マスコミはそれこそ、長い間、ベッキーを好感度タレントと持ち上げていたのに、不倫が発覚すれば、不倫とは関係ない悪評まで報道したというのに。つまり、アンチマスコミという理由だけで、ネット保守は、小保方氏を擁護しているわけではないのだ。彼らが行動を起こすスイッチを入れるためには、他にも材料が必要となる。それが大学教授(研究者)といった知識人たちだ。
私がそれを認識したのは、以下のような主旨の書き込みをいくつか見た時だった。彼ら曰く、社会主義は自由競争を否定するので、学歴がすべての社会となる。故に大学教授や大手マスコミ社員といった学歴社会の勝ち組たちは、鉄砲玉として、SEALDsの学生を利用し、自分たちの利権を守ろうとしている、とのことだ。
それらを読んで、私は実は、ネット保守は、”反権力志向”なのだと気づいた。そして、彼らが権力と考えているのは、国家や政府、安倍政権ではなく、マスコミや大学教授(研究者)なのだ。かつて年功序列・終身雇用の時代があり、その頃は、実力よりも過去に「どの大学を出たか」「いつ入社したか」といった過去の業績が重視された。その構造がまだまだ日本では残っているが、そのうま味を吸っているのが、マスコミと大学教授といった層だ、と彼らは捉えているのだろう。
そういうネット保守からすると、マスコミと理研の偉い先生方に叩かれるから、小保方氏は善となるわけか。
古谷氏はネット保守を若者ではなく、中年層だとも
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