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[5]トランプ氏がアメリカ大統領になる日

「予言の自己成就」という言葉が気になってならない

真鍋弘樹 朝日新聞編集委員

イメージで好き嫌いを決める

「トランプは米国を再びヘイトにする」というカードを見せて抗議活動をする女性=真鍋弘樹撮影拡大「トランプは米国を再びヘイトにする」というカードを見せて抗議活動をする女性=真鍋弘樹撮影

 ドナルド・トランプ氏とヒラリー・クリントン氏が直接、対決した第1回のテレビ討論会は、全米で8千4百万人が視聴し、過去最高の視聴率となった。

 この大統領選ディベートで、どちらが勝ったのかを判定する「簡単な方法」として、以前から言われているやり方がある。テレビの消音ボタンを押し、無音で見るというものだ。

 もちろん冗談半分ではあるのだが、一面の真実を突いている。全米の有権者のかなりの部分は、議論の流れを論理的に追っているわけではなく、候補者の見た目、受け答えする際のしぐさや表情、相手への態度を含む礼儀や気質など、つまりイメージで優劣、いや好き嫌いを決めている。それが現実なのだ。

 よく知られているのが、1960年に行われた第1回のテレビ討論である。

 若々しさを前面に出し、白黒画面に映える濃色のスーツを着たケネディ大統領が、いかつい表情で淡い色のコーディネートだったニクソン氏よりも好感され、支持率を上げたとされている。2000年の大統領選では、当時のゴア副大統領が論戦では圧勝したものの、相手のブッシュ氏を見下したように何度もため息をつく様子が全米に流れ、人望を失った。

「先生に間違いを指摘され、言い返す悪ガキ」

テレビ討論会に臨む共和党のドナルド・トランプ氏=ロイター拡大テレビ討論会に臨む共和党のドナルド・トランプ氏=ロイター

 さて、今回はどうだったのか。

 議論の内容に立ち入らず、画面だけを見た印象は、極端に言えば、「先生に間違いを指摘され、それに納得できずに言い返す悪ガキ」だった。もちろん、トランプ氏の方が悪ガキである。

 落ち着かずに体を揺らし、眉を上げたり口をとがらせたりしている。痛いところを突かれると、「いいや(No.)」「違う(Wrong!)」など、ちょこちょこと口を挟む。「アー」と声を発しながら首を左右に振る。鼻をすするシーンも多く、討論会後にはツイッターなどで冗談のネタになっていた。

 一方のクリントン氏は、遠慮なくトランプ氏の弱みを突きつつも、相手の発言は遮らずに忍耐強く聞く態度を見せた。時々、薄笑いを浮かべるなど、多少、尊大な印象もあったが、練習台としてトランプ役を任命してリハーサルをしていたというだけあって、余裕をもって反論することに成功していた。

 議論の内容を見ても、トランプ氏は対照的に準備不足が際立った。即興の受け答えやアドリブの極言がトランプ氏の人気の一つである以上、シナリオを想定した訓練はあまりしてこなかったのだろう。

 さて、討論会でクリントン氏が優勢だったのが事実として、これでトランプ氏は大きな失点を負ったと言えるだろうか。

優劣がわかるサイト「ファイブ・サーティー・エイト」

テレビ討論会に臨む民主党のヒラリー・クリントン氏=ロイター拡大テレビ討論会に臨む民主党のヒラリー・クリントン氏=ロイター

 現在の両候補の優劣を知るのに、実に便利なサイトがある。前回の大統領選で全州の予想を的中させ、選挙予想の分野で最も注目されている統計専門家、ネイト・シルバー氏が主催する「ファイブ・サーティー・エイト」(=大統領選の選挙人の数)だ。

http://projects.fivethirtyeight.com/2016-election-forecast/#plus

 各社世論調査を元に独自の解析を加え、50州と首都ワシントンでの勝敗を予想しているのだが、なんと、それを数時間ごとに更新している。

 このサイトによると、10月4日現在、「最新世論調査と経済や過去の動向などを加味した予想」として、クリントン氏の当選確率を69%、トランプ氏の当選確率を31%としている。この結果を見る限り、クリントン氏は初回の討論会後、リードを大きく広げることに成功したといえる。

 このサイトでは過去から現在までの推移をグラフにもしており、支持率の変化もよく分かる。実は、トランプ氏は7月の党大会後、一時は50ポイント近くも水をあけられていた。それが、じわじわと差を縮め、討論会直前にはほぼ互角となっていた。今回の討論会でまたかなりの差がついたものの、今までの傾向からすると、再び僅差(きんさ)となる蓋然(がいぜん)性も十分にありそうだ。

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筆者

真鍋弘樹

真鍋弘樹(まなべ・ひろき) 朝日新聞編集委員

1965年生まれ。一橋大学社会学部卒。朝日新聞入社後は社会部、那覇支局、ニューヨーク特派員、論説委員などを経てニューヨーク支局長。過去に「ロストジェネレーション」、「愛国を歩く」などの連載企画を手がけたほか、オバマ大統領が当選した2008年の米大統領選を担当した。著書に「3・11から考える家族」(岩波書店)、「花を 若年性アルツハイマー病と生きる夫婦の記録」(朝日新聞)、共著に「孤族の国 ひとりがつながる時代へ」(同)、「ロストジェネレーション さまよう2000万人」(同)などがある。

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