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『学歴社会』から『塾歴社会』へ(中)

”凡庸なサラリーマンを育てる”ことは難しい

杉浦由美子 ノンフィクションライター

 先の記事で紹介した『ルポ 塾歴社会』(おおたとしまさ)は、中学受験のサピックス、東大受験の鉄緑会にスポットライトを当てている。現在、中学受験で難易度が高い学校を狙う子供が通うのがサピックスであり、東大を狙う中高一貫校の生徒が通うのが鉄緑会なのである。つまり、現在、日本の偏差値エリート教育はこのふたつの塾が担っているといって過言ではない。しかし、この塾歴エリートたちへの対しては批判もある。

都立高の入試会場では、門前で学習塾の講師らが見送る中で、受験生が校舎へと入っていった=2006年、東京都千代田区拡大都立高の入試会場では、門前で学習塾の講師らが見送る中で、受験生が校舎へと入っていった=2006年、東京都千代田区
 2016年10月15日号の「週刊 東洋経済」は公立高校の逆襲を特集している。都立日比谷高校が進学実績を上げているのは、学校が夏休みも講習を行い、手厚く大学受験対策に取り組んでいるからだ。私の出身地、静岡県内でも進学実績が好調な県立韮山高校は、やはり学校側が熱心に受験対策や進学指導に取り組んでいる。塾の力ではなく、学校の努力が結果に結びついている。つまり、公立高校では、塾の力ではなく、学校の先生たちがいかに尽力するかで、進学率が決まっていく。公立のシステムの方が”健全”だと感じる保護者もいよう。

  公立高校の受験対策のカリキュラムは、塾が提供するものに比べたら、効率の点で劣ることもあろう。しかし、その不利な環境で、勝ち抜いてきた公立出身者たちは、地頭がよく、自立心も育つようにも想像できる。

  「私から見れば(中高一貫校の塾歴エリートたちは)セルフマネジメントを発揮せずに大学に入った人で、受け身の学習能力だ。そういう意味では同じ有名大学でも公立の伝統校を出た学生のほうが活躍してくれるのではという期待感があります」(「週刊 東洋経済」2016年10月15日号。IT関連メーカーの人事担当者のコメント)

  「サピックス出身の生徒を見ていて気になるのは、勉強を『作業』として淡々とこなす姿勢が身についてしまっていることです。勉強をしている姿に躍動感がないんです。やる気が湧いてこないときでもルーティンとして勉強に取り組むこと自体は素晴らしいことですが、それだけでは『後伸び』する可能性は低い」(『ルポ 塾歴社会』男子校の数学教師)

  「天下の灘や筑駒出身者に限って、大人になってからは意外に普通の仕事に就いている人が多くて。(中略)逆に大人になってからいわゆる華々しい活躍をしている人の多くは、人生の早期に何らかの挫折を味わい、ハングリー精神をうまく使っているという印象があります」(『ルポ 塾歴社会』サピックス鉄緑会出身者のコメント)

疑いのなさ、処理能力、忍耐力

  『ルポ 塾歴社会』では、大学受験で測れるものが、”疑いのなさ””処理能力””忍耐力”になっていると指摘している。この3点を徹底して叩き込まれたのが、塾歴エリートである。むろん、それでは、「華々しい活躍」をする人材の育成はできないし ・・・ログインして読む
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筆者

杉浦由美子

杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ) ノンフィクションライター

1970年生まれ。日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)卒業後、会社員や派遣社員などを経て、メタローグ社主催の「書評道場」に投稿していた文章が編集者の目にとまり、2005年から執筆活動を開始。『AERA』『婦人公論』『VOICE』『文藝春秋』などの総合誌でルポルタージュ記事を書き、『腐女子化する世界』『女子校力』『ママの世界はいつも戦争』など単著は現在12冊。

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