ラグビーの人気、スポーツの社会的価値を高め才能、知性、勇気をそなえた53歳が逝く
2016年10月25日
「オモロなってきたな」
神戸製鋼、日本代表でバックスの平尾さんとコンビを組んでいたスクラムハーフの堀越正己さん(立正大学ラグビー部監督)はその平尾さんのコトバを思い出す。
1993(平成5)年の1月3日、東京・秩父宮ラグビー場。全国社会人大会の準決勝の神鋼×三洋電機(現パナソニック)でのことだった。後半序盤、神鋼は三洋に逆転トライを許し、インゴールで円陣を組んだ。その輪が解けたとき、堀越さんは平尾さんの愉快そうな顔をみた。
「平尾さんがニタニタと笑って、“オモロなってきたな”とぼそっと言ったんです。ライバルだもの、三洋にはこのくらいやってもらわないと面白くないということだったと思います。ああラグビーを楽しんでいるな、と感じました。あの笑顔でもう、負ける気がしなくなりました」
そのあと、神鋼は平尾さんを中心として抜群の集中力を発揮した。追加点を許さず、逆に3ペナルティーゴールを加え、12-8で逆転勝ちした。決勝でも勝ち、この年、5連覇を達成する。結局、平尾さん、堀越さんたちは日本選手権7連覇を遂げた。
ラグビーは強いだけではつまらない。華麗でないと、多くの人を惹きつけることはできない。その美学を平尾さんは持っていた。それは当時、型にはめる関東の早大、慶大、明大とはちがう、平尾さんの師の同志社大・故岡仁詩さんの流儀でもあっただろう。
ラグビーは自由である。まずは自分自身がラグビーを楽しむ。スポーツの本源とはそういうものなのだ。これはラクとは意味がちがう。努力して努力して己の極限に挑み、真剣勝負ならではの楽しみである。海外でよくいう「エンジョイ」に近い。
主役は自分である。堀越さんに「平尾さんから学んだもの」を聞けば、ちょっと考え、「自分らしさ」と漏らした。
「平尾さんにしかできないことはいろいろありました。でも平尾さんは平尾さん、僕は僕です。特に言われたことはないんですが、“俺のことは気にするな”“堀越は堀越らしくやれ”ということを態度で示されていた感じがする
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