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同時配信で、テレビのコンテンツが徐々にネットへ

気になるスマホの世界の「ジャーナリズムブランドの不在」

渡邊久哲 上智大学文学部新聞学科教授

1 若年視聴者はすぐにはテレビに戻らない

 長期的に見れば、テレビ番組のネット同時配信全面解禁は良いことだと思う。あとは著作権さえクリアできれば、クールジャパンの中核コンテンツである、テレビ番組の流通基盤拡充につながるからだ。地上波テレビはこれまで全国世帯100%普及メディアと胸を張っていたが、若い層を中心に雲行きが怪しくなってきている。ネット配信を解禁してあらゆるデバイスからのアクセスを可能にする道を拓くのは必要なことだと思う。ラジオの場合も、スマホでラジコを聴いて「ラジオ放送の存在と面白さを同時に知った」という若年リスナーが存在する。

拡大テレビのネット同時配信について話し合う総務相の有識者会議
 しかしながら、現在テレビ受像機を持たずに「テレビ離れ」している大学生たちの反応は総じて冷ややかだ。テレビを見ない理由はそこにはない、番組自体の魅力が乏しいなどと指摘する声を聞く。また夜はバイトで忙しく、テレビどころでないそうだ。かつてトレンディードラマが若者を虜(とりこ)にした時代もあったが、今のドラマ好きは見るドラマをクチコミやレビューサイトの評価を確認してから決めるそうで、海の物とも山の物ともわからない新番組をいきなりリアルタイムで見るのは「リスキー」なのだそうだ。その一方でスポーツのビッグイベントなど時間を共有したいコンテンツについての利用意向は見られるものの、ネット同時配信解禁が若年層のテレビ回帰に直線的にむすびつくことはなさそうだ。

 若者がメディアを選ぶ基準は、手軽さ、便利さ、速さ、簡単さといったアクセス性と無料であることにある。ネット同時配信の全面解禁は若者がテレビ回帰するための必要条件に留まると考えた方がよさそうだ。

2 番組同時配信と民放ネットワーク

 番組のネット同時配信が持つ意味は、NHKと民放で異なる。そもそも民放テレビはこれまでもネット同時配信を禁止されていない。それをしなかったのは、第一義的には系列ネットワークを維持するためである。ローカル放送免許しか持たない民放地上波テレビ局は、全国各地の民放テレビ局との提携によりJNN、NNN等のネットワーク系列を形成することで、全国をカバーする取材網とニュース提供機能を持ち、東京キー局が作ったドラマやバラエティー番組を全国津津浦浦に届け、同時にスポンサーのCMも届けて我が国最大のマス広告媒体たりえた。

 東京キー局とローカル局の関係維持は民放業界の生命線である。ネット配信によりキー局の番組が全国どこからでもアクセス可能になることは、ローカル局の経営を脅かす。技術的にはGPS機能によるエリア制限で対応できるのかもしれないが、いずれにしても慎重さが求められる。

 しかし、仮にキー局がネット同時配信を始めても、ローカル局の視聴率が急落することはないだろう。テレビのメインの客層のネットへの移行には時間がかかる。むしろ、留意すべきは放送エリアの全世帯に占めるテレビ受像機で視聴できる世帯の割合の変化だ。視聴率はこの視聴可能世帯を分母にして測定されるが、分母自体が縮小すると、たとえそれが年に微々たるものであっても媒体価値にボディーブローのように響いてくる。将来これが表面化した時、ネット同時配信の「効果」が改めて問われるだろう。

3 受信料制度は終了し、税金と契約料金で賄うことを考えたい

 ネット同時配信の解禁はNHKにとっては受信料問題にかかわる。スマホでテレビ番組を見る人からも受信料を徴収するという策は、やはり国民の理解を得にくいのではないだろうか。

 NHKの受信料に関しては、この際、ジャーナリズム論と結びつけた抜本的な議論をしてみてはどうだろう。私見だが、受信料制度は終了し

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筆者

渡邊久哲

渡邊久哲(わたなべ・ひさのり) 上智大学文学部新聞学科教授

1959年生まれ。東京大学文学部社会心理学科卒、同大学院修士課程修了。1985年東京放送(現、TBSテレビ)入社。マーケティング部、選挙本部などを経て、2010年4月から現職。専門は世論形成過程、メディア・マーケティング。著書に、『調査データにだまされない法』『スペシャリストの調査・分析する技術』(ともに創元社)、『スマート化する放送』『ソーシャル化と放送メディア』(ともに学文社、分担執筆)など。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです