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なぜ日本でドーナツを売るのは難しいのか(上)

クリスピー・クリーム・ドーナツ新宿サザンテラス店が閉店

杉浦由美子 ノンフィクションライター

打倒スターバックスの意気込み

開店当日のクリスピー・クリーム・ドーナツのサカエチカ店=2011年9月、名古屋市中区栄3丁目拡大開店当日のクリスピー・クリーム・ドーナツのサカエチカ店=2011年9月、名古屋市中区栄3丁目
 クリスピー・クリーム・ドーナツの新宿サザンテラス店が1月3日で閉店する。2006年12月に日本1号店として、この場所にオープンしたときの騒ぎを覚えている方も多いだろう。長蛇の列ができ、各メディアが取り上げ、私も取材に行った。

  店はガラス張りになっていて、並ぶ客にドーナツを作る工程を見せていた。広報担当者は優秀な若い女性で、対応は完璧だった。

  この頃にはすでに「広告よりもプロモーションの時代」と言われていた。お金を出して、雑誌やテレビに広告を出しても効果は薄い。それよりも話題性を集め、メディアで取り上げさせる。また、ネットが普及した現在は口コミも広がりやすい。

  クリスピー・クリーム・ドーナツもオープン当時は、新宿でドーナツを配ったり、周辺の企業に試食品を差し入れたりして、プロモーション的な仕掛けをしていた。つまり、宣伝費を低く抑えつつ、目を引く方法で知名度をあげていった。その手腕には感心したものだった。

  だが、一方で、広報担当者は行列を見て、大きなため息もついていた。クリスピー・クリーム・ドーナツが日本上陸当初から目指していたのは、どこの街にでもある「普通のドーナツ屋さん」だった。ママたちが子供を連れてやってきては、おしゃべりをする店。そういうスペースを全国展開したかったはずだ。その1号店がサザンテラス店だった。新宿で足休めをしてもらう店を目指したかったのだと感じた。ちょうど近くにあるスターバックスのように。

  取材時、クリスピー・クリーム・ドーナツではコーヒーに力を入れていて、深めの味とアメリカン的なすっきりした味の2種類を用意していた。「打倒!スターバックス!」という意気込みすら感じられた。

観光名所となってしまったサザンテラス店

  ところがクリスピー・クリーム・ドーナツのサザンテラス店は観光名所になってしまったのだ。地方から夜行バスで東京に遊びに来た人たちが、新宿駅で降り、クリスピー・ドーナツで並び、ボックスでドーナツを買っていた。白に緑のラインというシンプルなデザインのパッケージも人気の要因で、トレンドのグッズとして求められた。一方で、あれだけ行列ができているのに、2階のイートインコーナーは満席というわけではなかった。

  こうなってしまうと、この後、どうやって全国展開するのだろうと、私も心配した。たぶんに、経営戦略は変更され、それがうまくいかなかったようにも見える。

  誠実な企業であることは確かだ。行列解消のために工夫し、並んでいる客にできたてのドーナツを無料で配ったりもしていた。しかし、その真面目さが裏目に出たようにも感じられる。

  既存のドーナツチェーン店とクリスピー・クリーム・ドーナツの違い。それはクリスピー・クリーム・ドーナツは店で粉から作っていた点だ。実際、有楽町店で大きな粉の袋をスタッフが運び込むところを何度も見かけた。そのため、作りたてのクリスピー・クリーム・ドーナツは今まで日本では味わうことができなかった食感だった。口の中に入れると溶けていく。だが、テイクアウトにすると、冷ましたものになる。それもおいしいのだが

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筆者

杉浦由美子

杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ) ノンフィクションライター

1970年生まれ。日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)卒業後、会社員や派遣社員などを経て、メタローグ社主催の「書評道場」に投稿していた文章が編集者の目にとまり、2005年から執筆活動を開始。『AERA』『婦人公論』『VOICE』『文藝春秋』などの総合誌でルポルタージュ記事を書き、『腐女子化する世界』『女子校力』『ママの世界はいつも戦争』など単著は現在12冊。

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