杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ) ノンフィクションライター
1970年生まれ。日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)卒業後、会社員や派遣社員などを経て、メタローグ社主催の「書評道場」に投稿していた文章が編集者の目にとまり、2005年から執筆活動を開始。『AERA』『婦人公論』『VOICE』『文藝春秋』などの総合誌でルポルタージュ記事を書き、『腐女子化する世界』『女子校力』『ママの世界はいつも戦争』など単著は現在12冊。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
安くて素敵なものが多すぎる国で、どう戦略を立てるか
クリスピー・クリーム・ドーナツサザンテラス店閉店を機に、ドーナツがなぜ日本市場で苦戦するのかについて書いている。
前回の記事では、糖質制限ダイエットブームの中で、フライドチキンのケンタッキーは人気が復活し、一方、小麦粉と砂糖を練った生地を油で揚げるドーナツは負けだと書いた。
減量ジムのライザップでも、徹底した糖質制限の食事指導をする。そのライザップが監修したレシピ本やパンなどがコンビニで売られている。このような糖質制限ブームの中ではドーナツは敬遠される一方だ。
しかし、そんな糖質制限ダイエットとは無縁の人たちも日本には沢山いるのだ。2015年の本欄の記事で、私は日本人20代女性たちのやせ傾向について取り上げた。2013年に行った厚生労働省の国民健康・栄養調査によると、日本の20代女性が1日に摂取するカロリーは1628キロカロリーで、飢餓問題で苦しむソマリア国民の平均摂取カロリーより少ないのだ。
これに対して、健康情報誌の編集者が「ダイエットは糖質制限か、カロリー制限かどちらかになる。お金がない若い層はカロリー制限に走る」と分析していた。
彼女たちは糖質制限を気にしない。全体の摂取カロリーが少ない中で、安くて満足度が高い食品を食べたいと思う。それにはお腹に溜まるお菓子はぴったりなのだ。つまり、若い女性という「糖質制限考えない」「甘い物大好き」という層が存在する。だが、その層がドーナツを食べているかといえば、それはちょっと違ってくる。なぜ、彼女たちがドーナツに手を伸ばさないか。それはアメリカなどに比べて、日本は甘くて美味しい食品の選択肢が広いからではないか。
なぜ、海外から日本への旅行者が増えたか。最大の理由は、もう日本は物価が高い国ではないからだ。東京が世界一物価の高い国だったのは過去のことで、今では、安全、清潔、お財布に優しい街になっている。500円玉がひとつあれば、明朗会計で、言葉が分からなくても、そこそこおいしいものを食べられる。
特に、海外から来る人たちが絶賛するのは「コンビニのスイーツが安くておいしい」ということだ。コンビニにいけば、カスタードクリームたっぷりのシュークリームが100円ちょっとで買える。しかも深い味わいのちゃんとしたクリームが詰まっている。もう少しお金を出せばロールケーキやチーズケーキ、チョコレートケーキも食べられる。こうなってくると、レジ横にあるドーナツの存在は薄れてくる。つまり、優秀なライバルが多すぎるというわけである。
ドーナツは美味しい。しかし、糖質制限
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