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「技能実習制度」の再考を

「国際貢献」という名の労働力供給システムを問う

鈴木江理子 国士舘大学教授

横行する不適切な制度利用

 2016年11月、「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(以下、「技能実習法」と表記)」が制定された。当該新法は、2015年3月(第189回国会)に上程され、継続審議の末、第192回臨時国会で成立した。新法制定の目的は、その名称が示す通り「技能実習の適正な実施」と「技能実習生の保護」であり、逆に言えば、20年以上前に創設された技能実習制度を規定する新法を今になって制定しなければならないほど、制度が適正に実施されておらず、技能実習生の権利が侵害されているということである。

拡大岐阜県の縫製業者で働いていたベトナム人技能実習生たち。残業代が割り引かれ、長時間労働を強いられたという=名古屋市熱田区
 既に2009年7月、「国際貢献」を目的とする研修・技能実習制度を適正化し、研修生・技能実習生を保護するために、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」)が改定されている(翌10年7月施行)。この改定によって、研修制度(国の機関等による公的研修と非実務のみの研修)と技能実習制度が区別され、「労働者」の受け入れである後者(前者は「学ぶ人」)に対する労働関係法令の適用を徹底するとともに、在留資格「技能実習」が創設された。

 しかしながら、法改定後も違法な受け入れは後を絶たず、2015年の労働基準監督署の立ち入り調査では、7割の実習実施機関で労働関係法令違反が報告されている。「労働者」としての権利侵害のみでなく、パスポートや在留カードの取り上げ、強制貯金、行動の制約(携帯電話の所持や外出の禁止等)、多様な名目(管理費・住居費・布団代等)でのピンハネなど「生活者」としての権利侵害、不正行為隠蔽のための強制帰国、さらには、「物言わぬ従順な労働力」であることを実習生に強いる送出し側での保証金や違約金の徴収――。これら違法な実態の数々は、メディアでも頻繁に報道されており、アメリカ国務省の『人身取引年次報告書』(2007年~16年、毎年)や、国連自由権規約委員会の最終見解(2008年10月、2014年7月)など国際的な批判も続いている。

技能実習法制定の効果は?

 技能実習法は、これら問題を解決しうるものであろうか。

 法制定の目的の1つである「技能実習生の保護」に関しては、技能実習の強制、パスポートや在留カードの取り上げ、強制貯金、行動の制約などに対して罰則規定が設けられている点は「改善」と評価することもできよう。だが、これらはすべて受け入れ側に対するものである。一方で、送り出し側に対する罰則規定はなく、国会審議のなかでも、法的拘束力のない政府間取り決めが示されているだけであり、送り出し機関による法外な保証金や違約金を実質的に防ぐ手立てはない。

 加えて、多くの実習生がもっとも恐れている、実習途中での強制帰国を防止する規定もない。さらに、「時給300円の労働者」を生み出してしまうような低賃金労働の改善については、「報酬の額が日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上であること」(技能実習法第9条の9)とあるものの、実効性を担保するための罰則規定がない。

 かりに、賃金その他の労働条件や生活環境などの点で実習生の保護が図られたとしても、もう1つの目的である「技能実習の適正な実施」はどうであろうか。技能実習法では、監理団体の許可制、実習実施者の届出制、技能実習計画の認定制といった適正化策が講じられているが、制度の根幹である「国際貢献」の実効性を保証する十分な規定はなく、本来の目的の形骸化に対する批判に応えるものにはなっていない。

拡大され続ける技能実習制度

 技能実習法のポイントは、上掲2つの目的を謳(うた)いつつ、技能実習制度の拡大を可能とする内容となっている点である。すなわち、「優良」な実習実施者・監理団体に対する実習期間の延長、受け入れ人数枠の拡大、介護分野への拡大である。

この点については、まさに「適正化」を担保に拡大を繰り返してきたのが、今日に至る研修・技能実習制度の展開であると言っても過言ではない。中小零細企業での受け入れを可能とする「団体監理型」の導入、技能実習制度の創設、非実務研修の短縮、受け入れ機関要件の緩和、実習期間の延長、技能実習移行対象職種の追加など、「使い勝手のよい安価な労働力」を求める市場の需要に応えるかのごとく制度が拡大され、それとともに受け入れ人数も増加している。在留資格「研修(4-1-6-2)」(注1)の新規入国者は23,432人(1988年)から54,049人(2000年)へ、「技能実習」の新規入国者は66,252人(2011年)から97,004人(2015年)へと増大し、2016年6月末現在の技能実習生は210,893人(在留外国人の9.1%)で、うち96.1%を団体監理型が占めている。

(注1)89年改定入管法(翌90年6月施行)で在留資格「研修」が創設される以前は、留学(在留資格「4-1-6」)の一形態として、「4-1-6-2」の在留資格が付与されていた。

実習実施機関の多くは中小零細企業

 技能実習生の増加を「国際貢献」の進展と捉えることができるかどうかは、実習実施機関の業種や従業員規模をみれば明らかであろう(表参照)。厳しい経営環境にさらされている多くの中小零細企業に「国際貢献」を行う余裕などない。グローバルな産業競争が激化するなか、熾烈なコスト削減を強いられ、賃金その他の雇用条件を改善することができない低賃金重労働の事業所が増えている。若者に敬遠されがちな、娯楽の少ない地方における労働力不足も深刻である。

拡大技能実習生の現状

 技能実習制度という「労働力」供給システムが当局によって拡大・強化されることで、

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筆者

鈴木江理子

鈴木江理子(すずき・えりこ) 国士舘大学教授

一橋大学大学院博士後期課程修了。博士(社会学)。NPO法人多文化共生センター東京理事、NPO法人移住者と連帯する全国ネットワーク副代表理事、公益財団法人かながわ国際交流財団理事等を兼任。移民政策、人口政策、労働政策などについて研究するかたわら、外国人支援の現場でも活動。主な著作に『「多文化パワー」社会』(共編著、2007年、明石書店)、『日本で働く非正規滞在者』(単著、2009年、明石書店、平成21年度冲永賞)、『非正規滞在者と在留特別許可』(共編著、2010年、日本評論社)と『東日本大震災と外国人移住者たち』(編著、2012年、明石書店)、『外国人労働者受け入れを問う』(共著、2014年、岩波書店)など。