悲惨な状態に置かれている外国人技能実習生、問われる法務省の人権感覚
2017年01月09日
実はこの年の1月には岐阜労働局から資料が送られてきて、最低賃金法違反が多いと言われていました。しかし「まさかここまで」とは思いませんでした。改めて資料を見直すと岐阜県の縫製業には3000人以上の実習生が働いており、労基署の調査で約5割が最賃違反・割増違反でした。しかもこれ以外に証拠隠滅が24%、さらには(会社から脅されたりして)実習生が「問題ない」と証言したため、指導できなかったものもあるといいます。関係者は「岐阜の縫製業はほとんどがこうだ」と言います。
この資料は岐阜県、名古屋入管、岐阜労働局などでつくる「第10回技能実習生等受入適正化推進会議」(2016年1月21日)で配布されたものでした。「推進会議」は2006年から毎年開催され、監理団体への改善要請、業界団体に「工賃の適正化」を要請してきました。昨年監督署から賃金不払いを是正指導された業者は、「メーカーに工賃の見直しをお願いしていた」と言っていました。安い製品が輸入されるなか、業界ぐるみで縫製業者に不当な工賃が押しつけられ、これが400円の残業代となっていました。
要請書の文面は「発注契約においては、適正な工賃を設定していただくこと」とされ、毎回一字も変わっていません。行政が全く同じ改善要請文を出すことは異例です。しかも昨年は「監理団体ぐるみの隠蔽も疑われる事案があるなどより一層の悪質化が進んでおり、問題は未だ解決されていません」としていました。
またそこに巣くうブローカーの存在もあります。労基署に申告した後、実習生たちが連れて行かれた監理団体の事務所には、神戸の建設会社役員の名刺をもった黒服の男が来て「なんでワシに相談せんとローキに!」と怒鳴りました。また他の実習生は「元警官」という人の事務所に連れて行かれ、20万円の和解金で「労基署への訴えを取り下げろ、取り下げなければ帰国だ」と言われました。このように受け入れ団体とそれ以外にも二重、三重の仕組みができて不正が隠蔽されてきました。
岐阜の縫製業だけで全国の最賃違反の約2割を占めており、一地方の問題ではありません。当初「問題があるとは聞いていない」と言っていた経産省も最後には世耕大臣が今年11月の臨時国会で「岐阜県における実態を調査してまいります」と答弁しました。12月14日の経産省告示「下請中小企業振興法・振興基準」にも「最低賃金の引き上げに伴う労務費上昇については、その影響を十分に加味して協議する」と書かれています。年末には中部経産局から「調査担当者が決まった」と連絡がありました。
先の臨時国会で「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(「実習生新法」)が成立しました。あわせて在留資格取り消し条件の強化を含む改正入管法も成立しました。
「新法」は「外国人技能実習機構」を新設し、監理団体を「許可制」にしました。昨年、広島県の櫻花協同組合の役員が2000万円の着服で起訴されました。私は「非営利のはずなのに利益を上げているではないか」と指摘しましたが、法務省は「(届出が)事業協同組合なので営利団体ではない」と答えました。許可制になれば「新機構」が実態調査を行うことになると思います。
また新法では、実習生が不正を訴えることができるよう「申告権」を新設しました。今後は労基法違反以外の不正についても訴える権利が保障されたことは重要です。
しかし実際の監督体制は全く足りません。「新機構」の全国13カ所の地方事務所は
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