メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

残業代400円、岐阜アパレルのベトナム人実習生

悲惨な状態に置かれている外国人技能実習生、問われる法務省の人権感覚

榑松佐一 愛知県労働組合総連合(愛労連)議長

(1)岐阜アパレルで大量の〝割引賃金〟

①残業代400円で月100時間、土日も休み無し

拡大月給6万円、残業代400円の契約書
 岐阜アパレルで働くベトナム人実習生から「残業代400円、500円」という告発が続いています。愛知県労働組合総連合(愛労連)には昨年7月から11月の間に8件の訴えがあり、労基署の調査が行われました。ふつう割増違反と言えば125%払うべきところ100%しか払わないことをいいますが、ここでは「大幅割引」です。月給6万円、残業代400円の契約書を見て驚きました。しかも彼女たちの残業記録にはひと月に1日も休みが無かったのです。

 実はこの年の1月には岐阜労働局から資料が送られてきて、最低賃金法違反が多いと言われていました。しかし「まさかここまで」とは思いませんでした。改めて資料を見直すと岐阜県の縫製業には3000人以上の実習生が働いており、労基署の調査で約5割が最賃違反・割増違反でした。しかもこれ以外に証拠隠滅が24%、さらには(会社から脅されたりして)実習生が「問題ない」と証言したため、指導できなかったものもあるといいます。関係者は「岐阜の縫製業はほとんどがこうだ」と言います。

②行政は10年間毎年、文書で改善を要請

 この資料は岐阜県、名古屋入管、岐阜労働局などでつくる「第10回技能実習生等受入適正化推進会議」(2016年1月21日)で配布されたものでした。「推進会議」は2006年から毎年開催され、監理団体への改善要請、業界団体に「工賃の適正化」を要請してきました。昨年監督署から賃金不払いを是正指導された業者は、「メーカーに工賃の見直しをお願いしていた」と言っていました。安い製品が輸入されるなか、業界ぐるみで縫製業者に不当な工賃が押しつけられ、これが400円の残業代となっていました。

 要請書の文面は「発注契約においては、適正な工賃を設定していただくこと」とされ、毎回一字も変わっていません。行政が全く同じ改善要請文を出すことは異例です。しかも昨年は「監理団体ぐるみの隠蔽も疑われる事案があるなどより一層の悪質化が進んでおり、問題は未だ解決されていません」としていました。

③業界・監理団体・ブローカー

拡大ネズミの走る台所
 2010年の法改正後もこのような大規模な不正が一切報道されず、社会問題にならなかったことには何らかの理由があると思われます。岐阜の縫製業は90年代初頭の外国人研修制度発足の地であり、歴史のある監理団体と行政との深い関係があります。

 またそこに巣くうブローカーの存在もあります。労基署に申告した後、実習生たちが連れて行かれた監理団体の事務所には、神戸の建設会社役員の名刺をもった黒服の男が来て「なんでワシに相談せんとローキに!」と怒鳴りました。また他の実習生は「元警官」という人の事務所に連れて行かれ、20万円の和解金で「労基署への訴えを取り下げろ、取り下げなければ帰国だ」と言われました。このように受け入れ団体とそれ以外にも二重、三重の仕組みができて不正が隠蔽されてきました。

④経産省が実態調査へ

 岐阜の縫製業だけで全国の最賃違反の約2割を占めており、一地方の問題ではありません。当初「問題があるとは聞いていない」と言っていた経産省も最後には世耕大臣が今年11月の臨時国会で「岐阜県における実態を調査してまいります」と答弁しました。12月14日の経産省告示「下請中小企業振興法・振興基準」にも「最低賃金の引き上げに伴う労務費上昇については、その影響を十分に加味して協議する」と書かれています。年末には中部経産局から「調査担当者が決まった」と連絡がありました。

(2)「実習生新法」で不正は無くなるか

 先の臨時国会で「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(「実習生新法」)が成立しました。あわせて在留資格取り消し条件の強化を含む改正入管法も成立しました。

① 新法の前進面

 「新法」は「外国人技能実習機構」を新設し、監理団体を「許可制」にしました。昨年、広島県の櫻花協同組合の役員が2000万円の着服で起訴されました。私は「非営利のはずなのに利益を上げているではないか」と指摘しましたが、法務省は「(届出が)事業協同組合なので営利団体ではない」と答えました。許可制になれば「新機構」が実態調査を行うことになると思います。

 また新法では、実習生が不正を訴えることができるよう「申告権」を新設しました。今後は労基法違反以外の不正についても訴える権利が保障されたことは重要です。

② 急増する実習生、事後規制には限度

 しかし実際の監督体制は全く足りません。「新機構」の全国13カ所の地方事務所は

・・・ログインして読む
(残り:約1433文字/本文:約3355文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

榑松佐一

榑松佐一(くれまつ・さいち) 愛知県労働組合総連合(愛労連)議長

1956年静岡県生まれ。1978年名古屋大学理学部卒業後、現コープあいちに就職。生協での労組役員中に日本福祉大学大学院修士課程を修了。2000年から愛労連事務局長を経て09年から現職。07年のトヨタ下請企業でのベトナム人研修生事件を機に相談を受ける。著書に『トヨタの足元で』(2008年風媒社)、『外国人実習生支援ガイド』(2010年かもがわ出版)。